研究課題
鳥類は特有な生体構造を持ち、哺乳類には存在しない腎門脈が腎臓に大量の血液を運ぶため、腎臓における化学物質曝露量は多く、腎障害が起こりやすいと考えられる。しかしながら、鳥類の診療で主に用いられる尿酸値は腎機能が70%以上障害を受けなければ変動せず、有用な腎障害マーカーとは言い難い。そこで本研究では、鳥類における腎障害バイオマーカーの探索を目的とした。腎障害を引き起こすとされるジクロフェナク、シスプラチンをそれぞれニワトリに投与し、腎障害モデルを作成した。血液検査、病理検査結果から腎臓特異的な障害を持つ個体を判断し、血漿中の糖鎖解析と、腎臓組織のマイクロアレイ解析・リアルタイムPCR法を行った。糖鎖は現在ヒト医療において疾病マーカーとして着目されており、ニワトリにおいて腎障害程度と各糖鎖の発現量を比較したところ、ジクロフェナク投与により14種の糖鎖で発現が増加し、これらはシアリル化され、かつフコシル化されていないという特徴を所持していた。シスプラチン投与群では発現の変動が認められず、腎障害の中でも障害を引き起こすメカニズムの違いにより、糖鎖発現に違いが現れると考えられた。遺伝子発現を網羅的に分析するマイクロアレイ解析では、ジクロフェナク・シスプラチン投与群に共通して障害度依存的に発現が増加した遺伝子が数種類認められた。中にはヒトにおいて新たな腎障害マーカーとして注目されている遺伝子もあり、今後ELISAなどでタンパク質の発現を定量していく予定である。ニワトリでの腎マーカー候補を確定させた後、多種鳥類を対象とし、鳥類種網羅的に使用可能な腎障害マーカーの探索を行う。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、腎障害を引き起こす2種類の化学物質(ジクロフェナク・シスプラチン)を投与することで、異なるタイプの腎障害モデルニワトリを作成した。血液生化学検査や各種臓器の病理検査を行い、腎臓特異的な障害を持つことを確認した後、血漿の糖鎖解析や腎臓のトランスクリプトーム解析により網羅的に腎障害マーカーの探索を行った。その結果、ニワトリにおいて、腎障害のレベルに応じて発現が上昇するいくつかの腎障害マーカー候補物質が認められた。ニワトリで変動が認められた糖鎖・遺伝子ともに、ヒトの腎臓疾患においてマーカー候補とされているものが含まれ、これらは鳥類においても種横断的に利用可能な可能性が高いと思われる。現在候補遺伝子を対象としてリアルタイムPCRにて定量を進めており、今後タンパク質解析等を進める予定である。また、並行して国内外の専門機関の協力を得て、希少種を含めた野生鳥類の血漿試料採取(健常個体と腎障害個体)を進めている。ニワトリにおける腎障害マーカーを特定した後、これら野生鳥類試料の解析に移り、候補マーカーの発現変動を調べる。以上の結果を国内外の学会で発表した他、英語論文としても近いうちに投稿予定であり、おおむね順調に進んでいると考える。
現在、腎障害マーカーの探索のためのマイクロアレイ解析結果より、数種のマーカー候補遺伝子を認めている。今後リアルタイムPCR解析によりこれらのマーカー候補遺伝子の定量を行い、腎障害依存的に発現が上昇していることを確認する。その後、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)等でタンパク質においても同様に、マーカー候補物質の発現上昇が認められるかを調べる。また、腎障害モデルニワトリでの候補マーカーを絞り込んだのち、ニワトリの腎臓培養細胞を作成し、腎障害を引き起こす様々な化学物質を曝露する。細胞への曝露実験によって、ニワトリにおける投与実験で候補とされた腎障害マーカー物質が、様々なタイプの腎障害誘導物質に応じてどのように変動するかを探り、できるだけ多くの腎疾患に共通して発現が上昇するマーカーを探索する。その後、希少野生鳥類を始めとする多種の鳥類種を対象として実験を進め、ニワトリでの腎障害マーカーの種を越えた有用性を検討し、鳥類種横断的に利用可能なマーカーを探索する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Journal of Veterinary Medical Science
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