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2015 年度 実績報告書

未知補因子が関与するRNA硫黄転移機構の構造基盤

研究課題

研究課題/領域番号 15J01961
研究機関北海道大学

研究代表者

陳 明皓  北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2015-04-24 – 2018-03-31
キーワードtRNA転写後修飾 / 硫黄転移 / 新規酵素反応機構 / 鉄硫黄クラスター
研究実績の概要

tRNAへの硫黄転移は,全ての生命に共通する普遍かつ重要な化学修飾であり,翻訳正確性,環境応答,tRNAの構造安定性など様々な生命現象に関与する.このようにtRNA硫黄修飾が重要な役割を担っているにもかかわらず,その導入機構にまだ不明な点が多く残されている.そのうち,特に真核生物tRNAの32位と原核生物tRNAの54位の硫黄修飾を担うNcs6/TtuAファミリーの酵素活性は好気的な条件下では測定することができず,他の酵素ファミリーに比べ研究が大きく遅れているのが現状である.我々はこれまで好熱性細菌Thermus thermophiles 由来のTtuAを用いて,完全嫌気条件下かつ補因子鉄硫黄クラスターが関与する必要があることを見いだした.本研究では生化学,分光学及び構造学的な手法を用いて,3年以内にNcs6/TtuAによる硫黄転移の反応機構の完全解明を目指す.
平成27年度の研究では,私は酵素TtuA, 硫黄運搬タンパクTtuB, 基質tRNA, 補酵素の鉄硫黄クラスター及び基質ATPの5者複合体の試料調製を中心に実験を進め,Thermotoga maritima由来のTtuAを用いることによって安定なtRNA複合体を調製する条件を見つけた.来年度以降この条件をもとに5者複合体の結晶化を行う予定である.
さらに大量な試行錯誤の中,私はtRNAを除く他の4者からなる複合体の結晶作製及び構造解析に成功した.この構造は複合体を構成する4分子間の相互作用様式や重要な残基の位置を明らかにし,反応機構の全貌への理解を大きく深めることができた.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

平成27年度には申請書通りに、TtuAによる硫黄転移の反応機構を構造学的に解明するための試料調製を中心に研究を進めた.Native-PAGE及びゲル濾過クロマトグラフィーを用いて,結合温度,時間,塩濃度,pH, 基質tRNAの種類, TtuAの生物種など様々な条件検討した結果,高い効率で上述の5者複合体を作製することに成功した.
また,私は5者複合体の試料調製だけでなく,tRNAを除く他の4者複合体の構造解析にも取り組み,最終的に分解能2.8オングストロームの回折データの収集に成功した.得られたデータを解析し, TtuA, TtuB及び鉄硫黄クラスターの電子密度マップが観測されたことから,得られた結晶構造は上記の3者の複合体であると判断した.さらにソーキング法により上述3者とATPの複合体の結晶構造解析に成功した.この構造はTtuA-TtuBが基質tRNAと結合する直前の状態であると考えられ,反応機構の全解明に大きく寄与できた.
さらに,tRNA硫黄修飾酵素ThiI及びシステイン- tRNA合成酵素SepCysSは,原核生物の紫外線損傷応答及び翻訳において必要不可欠である.これらの酵素はTtuAと異なるファミリーに属しているが,本研究が進むにつれて,TtuAと同様に鉄硫黄クラスターを用いて硫黄を転移する可能性が浮かび上がった.その可能性を検証するために,それぞれのタンパク試料を調製して,嫌気条件下でクラスターを再構成したところ,上記の仮説を支持する結果が得られた.これはTtuAのクラスター依存的な硫黄転移機構は一部の生物・酵素ファミリーのみならず,より普遍的に生体に用いられる反応であることを示唆した.
以上の研究成果をもって,平成27年度は当初計画以上に進展していると判断した.

今後の研究の推進方策

本年度の研究成果を踏まえて,平成28年度は引き続き酵素TtuA, 硫黄運搬タンパクTtuB, 基質tRNA, 補酵素の鉄硫黄クラスター及び基質ATPの5者複合体の結晶構造解析を行う.それぞれ調製した試料を混合した後,ゲル濾過クロマトグラフィーカラムで精製し,結晶化スクリーニング及び最適化を行う予定である.順調に良質な結晶を得た場合,さらにATPやそのアナログをソーキング法で結晶に導入し,TtuAによる硫黄化反応の各ステップの構造を捉える.一方,初期結晶を得ることが困難な場合,タンパク質と核酸の共結晶法や本研究室が開発中のニッケルケージ結晶化法など,他の結晶化手法を導入する予定である.
またTtuAによる基質tRNAの認識機構がまだ明らかにされておらず,平成28年度ではTtuA及びtRNAの変異体を作製し,Native-PAGE及び等温滴定型熱量測定法を用いてTtuAとtRNAの結合形式を解析する予定である.
さらにRNA硫黄修飾酵素ThiI及びシステイン- tRNA合成酵素SepCysSに関して,分光学でそれぞれの酵素に含まれているクラスターの種類を同定した後,嫌気条件下ので酵素活性解析や結晶構造解析を行い,硫黄転移における鉄硫黄クラスターの普遍的な役割を解明する.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 2015

すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [学会発表] バクテリアにおけるユビキチン様翻訳後修飾の構造基盤2016

    • 著者名/発表者名
      陳 明皓
    • 学会等名
      2015年度量子ビームサイエンスフェスタ
    • 発表場所
      つくば国際会議場(茨城県つくば市)
    • 年月日
      2016-03-15 – 2016-03-16
  • [学会発表] Structural basis of a novel Fe-S cluster dependent thiolation mechanism for tRNA2016

    • 著者名/発表者名
      Minghao Chen
    • 学会等名
      8th HOPE Meeting with Noble Laureates
    • 発表場所
      つくば国際会議場(茨城県つくば市)
    • 年月日
      2016-03-07 – 2016-03-11
    • 国際学会
  • [学会発表] 嫌気条件下での鉄硫黄タンパクの結晶化2015

    • 著者名/発表者名
      陳 明皓
    • 学会等名
      新学術領域 第2回「動的秩序と機能」若手研究会
    • 発表場所
      ホテルたつき(愛知県蒲郡市)
    • 年月日
      2015-10-05 – 2015-10-07

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公開日: 2016-12-27  

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