研究課題
tRNAへの硫黄転移修飾は,普遍かつ重要な生命現象であり,翻訳正確性,環境応答,tRNAの構造安定性など様々な生命現象に関与する.このようにtRNA硫黄修飾が重要な役割を担っているにもかかわらず,その導入機構にまだ不明な点が多く残されている.本研究では好熱性真正細菌由来の硫黄転移酵素TtuAを用いて,完全嫌気条件下かつ補因子鉄硫黄クラスターが関与する必要があることを見いだした.昨年度では我々が硫黄転移酵素TtuA,硫黄運搬タンパク質TtuB,補因子鉄硫黄クラスター及びATPの4者複合体の構造解析に成功した.得られた構造より,鉄硫黄クラスターが硫黄を運搬するTtuBのC末端と直接相互作用することが明らかになったが,相互作用の後どのように硫黄原子をTtuBからtRNAヘ転移するのかが不明であった.X線結晶構造解析法からは分子の静的な空間情報しか得られないため,詳細な反応機構を調べるのに水銀ゲル電気泳動法を用いてTtuBから硫黄の脱離するタイミングを観測する実験系を立ち上げた.これにより,TtuBからの硫黄脱離現象はtRNAの存在に依存する結果を見いだし,硫黄がTtuBから直接tRNAに転移されることが明らかになった.我々は昨年度よりTtuAと基質tRNAの複合体の試料調製を試みたが,安定な複合体が得られなかった.本年度ではTtuAの類縁タンパク質であるTtcAに注目し,遺伝子クローニングと大量発現に成功した.高度に精製したTtcA及びtRNAを用いて,TtcA-tRNA複合体が安定に溶液中で存在することを確認したとともに,高速液体クロマトグラフィーを用いてTtcAの酵素活性を検出し,TtcAはtRNA複合体の結晶化構造解析に適していることを見いだした.本年度では得られた上記の研究成果を国際誌(2報)及び国内学会(3回)で発表した.
2: おおむね順調に進展している
昨年度では我々が硫黄転移酵素TtuAを含むtRNA硫黄修飾合成4者複合体の結晶構造解析に成功した.得られた構造より,鉄硫黄クラスターが硫黄を運搬するTtuBのC末端と直接相互作用することが明らかになったが,i) クラスターがTtuBのC末端位置を固定化させて,硫黄転移の効率化に寄与しているのか(直接経路),それとも ii)クラスターが一旦TtuBのC末端からSを受け取ってから,クラスターから基質tRNAに転移するのか(間接経路)がまだよくわかっていない.今年度私たちはこの2つの仮説のもっとも大きな違い, TtuBから硫黄の脱離(i) 直接経路の場合には,基質tRNAが結合してからTtuBから硫黄が脱離する; ii) 間接経路の場合には,基質tRNAがなくてもTtuBから鉄硫黄クラスターへ硫黄原子が転移する)に注目して,水銀ゲルを用いてTtuBから硫黄の脱離するタイミングを観測する実験系を立ち上げた.これにより,TtuBからの硫黄脱離現象はtRNAの存在に依存する結果を見いだし,直接経路が正しいであることを証明した.さらに我々はTtuAの新規なRNA硫黄転移機構を完全解明するために,今年度引き続きTtuAと基質tRNAの複合体の試料調製を試みたが,安定な複合体が得られなかった.そこでまず生物種およびホモログタンパク質のスクリーニングを行い,その結果,大腸菌由来のTtcAがtRNAと良く結合することを発見した.そこで私たちは高度に精製したTtcA及びtRNAを用いて,TtcA-tRNA複合体が安定に溶液中で存在することを確認したとともに,高速液体クロマトグラフィーを用いてTtcAの酵素活性を検出した.これらの知見を踏まえ,来年度TtcA-tRNA複合体の結晶を作成する予定である.上記の研究進捗を踏まえて,本研究は現在計画とおり順調に進展していると考える.
今年度では我々がTtuBからtRNAへ硫黄原子を転移する様式を同定し,大きな進展がえられたが,TtuAのtRNA認識機構や反応機構の詳細についてまだ不明な点が残っていた.そのため基質tRNAを含む5者複合体の構造解析が必要とされ,そのための試料調製の条件検討を今年度行った.来年度では,決定された条件を用いてtRNA複合体試料を大量調製し,結晶化スクリーニングを行う.得られた初期結晶をpHや沈殿剤濃度条件を変更し,結晶化条件を最適化する.良質な結晶を作成した後,大型放射線施設にて結晶の回折データを収集し,構造解析を行う.得られた高分解能の構造をもとに変異体実験をデザインし,鉄硫黄クラスターが関与するTtuAの硫黄転移機構を完全解明する.一方近年報告されたTtcAに続き,今年度に他の近縁RNA硫黄転移酵素ThiIも鉄硫黄クラスター依存的に酵素反応を行うことが報告され,鉄硫黄クラスターが関与するこの新規な反応機構は普遍的に用いられることが示唆された.しかし,その報告ではThiIに含まれているのは[3Fe4S]タイプのクラスターであると示し,去年度私たちの結果と大きく異なった.そこで,この酵素に含まれている真のクラスターのタイプを同定する必要があると考えた.今年度では報告されたThiIをクローニング,発現精製に成功し,TtuAと同じく再構成処理を行うことによって鉄硫黄クラスターをタンパク質に導入することに成功した.来年度では得られたThiIを用いて生化学・分光学及び結晶構造の手法を用いてTtuAと対照実験を行い,鉄硫黄スラスターの正しいタイプの同定及び,ThiIにおいて鉄硫黄クラスターの使い方の詳細を調べる予定である.
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Proceedings of the National Academy of Sciences
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Acta Crystallographica Section F Structural Biology Communications
巻: F72 ページ: 777, 781
10.1107/S2053230X16014242