本年度はTtuAの活性部位周辺の残基に網羅的にアラニン変異を導入したのち、HPLCを用いてTtuAの酵素活性実験、また水銀ゲルを用いてTtuBの脱硫実験を行った。その結果、残基Ser55、Asp59、Asp161およびLys137にアラニン変異を導入すると酵素活性がほぼまたは完全に阻害されることを見出した。構造情報から、前者の3残基は基質塩基のアデニル化、後者の1残基はTtuBの脱硫反応に関与する仮説を立てた。 TtuAに含まれている[4Fe4S]型鉄硫黄クラスターは、活性部位に進入するTtuBまたは硫黄イオンと配位できるとX線結晶構造より観測されている。しかし、この推定された鉄硫黄クラスターの機能は結晶中だけでなく、溶液中における動的な状態をも確認する必要があった。そこで私は電子スピン共鳴(ESR)法に注目した。ESRは分子中に存在する孤立電子対を観測する分光学的な手法であり、鉄硫黄クラスターなどの無機金属補因子の状態を調べるのに適している。今年度は佐賀大学の堀谷正樹助教の協力を得て、i)TtuA単体、ii)カルボキシル化TtuB存在下、iii) チオカルボキシル化TtuB存在下、iv)Na2S存在下における鉄硫黄クラスターの配位状態をEPR法を用いて測定し、それぞれに明確な違いが観測された: 何も加えない場合鉄硫黄クラスターのESRスペクトルはRhombic型に対して、カルボキシル化TtuBを加えるとaxial型に変化し、さらにチオカルボキシル化TtuBおよびNa2Sを加えた時ではTtuA単体の時と異なるRhombic型のスペクトルが得られている。これらの実験結果から、鉄硫黄クラスターは結晶中だけでなく、溶液中でもリガンド分子と配位結合を形成することが確認された。現在はこれまでに得られた実験結果をまとめて、国際誌への投稿を準備している。
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