研究課題/領域番号 |
15J01971
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石井 祐次 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 氾濫原 / 東アジア夏季モンスーン / 蛇行河川 / 泥炭層 / 完新世 |
研究実績の概要 |
本年度は石狩低地における完新世中期以降の海水準変動の検討,石狩低地内陸部における河道の蛇行の挙動に関する調査,後志利別川低地における完新世中期以降の氾濫原の発達過程の調査をおこなった.石狩低地の完新世の最大海進期に潟湖が発達した地域において得られた泥炭層の基底の年代をもとに,相対的な海水準変動を検討した.その結果,完新世中期から後期にかけて大きな相対的海水準の低下が生じていないことが示唆された.このことから,完新世中期以降の相対的な海水準変動は,石狩低地の氾濫原の発達に大きな影響を持たないことが示唆された.また,石狩低地においては約5600~3600 cal BPの東アジア夏季モンスーンの段階的な弱化により,氾濫堆積速度の低下が段階的に生じて泥炭層が形成され始めたことを議論し,その内容をThe Holoceneに投稿した. 完新世中における石狩低地内陸部の河川の蛇行の挙動を明らかにするため,現在の河道付近および旧河道付近において試料採取をおこなった.現在の河道および旧河道の蛇行部の外側においては氾濫堆積物および泥炭層が厚く堆積しており,過去数千年間にわたり蛇行部が通過した形跡がないことが明らかとなった.このことから,氾濫堆積物および泥炭層は蛇行部の通過後に形成されるポイントバー堆積物と比べると侵食されにくいために河道の蛇行が現在の河道周辺のみに制限されていた,もしくは,蛇行が過去数百年間に急速に進行して旧河道が多く形成された可能性がある.当初は2次元の河床変動の数値モデルを用いて流量変動が河道の蛇行速度を明らかにすることを予定していた.しかし,論文のレビューの結果などから,現段階では2次元の河床変動の数値モデルでは長期の河床変動を検討することが困難であることが明らかとなった.そのため,蛇行流路における浅水方程式の線形化にもとづく数値モデルの援用を検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目および2年目に目標としていた試料採取をおこない,石狩川の内陸部と下流部における河成層の堆積過程の違いを検討すること,気候変動が蛇行に与える影響について検討することができた.一方,1年目において目標としていた一次元河川における河床変動モデルを用いて,海水準変動が河床変動に与える影響について検討することができなかった.そのため,現段階ではおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
研究開始当初は,2次元の河床変動の数値モデルを用いて,気候変動にともなう流量変動が河道の蛇行に与える影響を議論することを検討していた.しかし,2次元の河床変動の数値モデルは現在においても数百年スケールでの長期の蛇行の再現に関しては課題が多いことが,既存の論文のレビューから判明した.そのため,気候変動にともなう流量変動が蛇行速度に与える影響は主にフィールドのデータにもとづいて議論して,その裏付けとして蛇行流路における浅水方程式の線形化にもとづく数値モデルを援用することを検討している. 一次元の河床変動モデルに関しては,現段階では使用するモデル自体はできている.そのため,今後は実際の状況を想定してモデルを使用し,海水準変動が河床変動に与える影響を議論する. 東アジア夏季モンスーンというリージョナルな気候変動に対する氾濫原の応答を明らかにするために,当初の研究計画には含まれていなかった,北海道の後志利別川低地においても今年度は調査をおこなった.来年度はさらに,鹿児島の肝属平野においても同様の調査をおこなっていき,各低地において気候変動が氾濫原の発達に与える影響の共通点や差異と,その原因について検討していきたい.
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