肝属平野では7000~6000年前にクレバススプレイが放棄されて泥炭層が形成され始めたこと、そして霧島御池テフラ(Kr-M)の堆積前後に泥炭層の形成が中断したことを前年度までに明らかにした。本年度は、泥炭層の堆積が中断した前後において多数の放射性炭素年代値を測定した。その結果、約4000年前に泥炭層の形成が中断したことが明らかとなった。この中断は、東アジア夏季モンスーンの弱化にともなう降水量の低下と関連していると推測される。また、肝属川から遠い地点では約2000年前に泥炭層の形成が再開し、その他の地点では氾濫堆積が卓越して有機質泥層が形成されたことがわかった。これらの堆積環境の変化は、ラニーニャ的な環境への変化にともなう降水量の増加に起因している可能性がある。 また、肝属平野の例から、夏季モンスーンの弱化が生じる5600~3600年前以前に河成層のアグラデーションが広範囲にわたってほぼ停止している地域があることが明らかとなった。そのような氾濫原では一般的に、夏季モンスーンの弱化に対する河川活動の弱化を検出することは困難であろう。汎世界的な海水準上昇速度が低下した約7000年前以降から5600~3600年前までの河成層のアグラデーション速度を決定する要因として、上流域からの土砂供給量が多いことや上流側から供給される土砂が細粒であり自然堤防の上方への累重速度が緩やかであるといった、河川システムの内的な要因が重要であると推測された。
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