研究課題
本研究では、イヌの腫瘍治療を目的として免疫抑制因子Programmed death-1(PD-1)およびPD-ligand 1(PD-L1)の発現解析・機能解析を行う。さらに治療用抗PD-L1抗体を作成し、腫瘍罹患犬を用いた臨床研究を行い、その治療効果を評価することが最終目標である。前年度までにイヌ腫瘍において網羅的にPD-L1の発現解析を行い、口腔内メラノーマをはじめとした対象腫瘍を決定した。またイヌPD-1/PD-L1結合を阻害する活性のある抗PD-L1抗体を選抜し、治療用抗体の設計及び発現ベクターの作成、安定発現細胞の樹立を完了した。本年度は樹立された安定発現細胞に対し段階的に負荷をかけることで抗体の発現量を増大させる処置を継続して行い、さらなる高発現細胞を樹立することに成功した。培地や添加物、培養条件の最適化も行い、併せて最大700 mg/Lの抗体を産生する発現細胞株の樹立を完了した。この高発現細胞株用いて数L程度の培養を繰り返し、臨床研究に必要となる大量の精製抗体を準備した。健康犬1頭に対し、治療用抗PD-L1抗体を3回投与したところアナフィラキシーや自己免疫疾患等の副作用は観察されなかった。そこで北海道大学動物医療センターに来院した腫瘍罹患犬に対し、本抗体薬を投与して治療効果や安全性を見る臨床研究をスタートさせた。平成29年1月までに延べ9頭に対し63回の抗体投与を行ったが、アナフィラキシー等のアレルギー反応や自己免疫疾患等の免疫関連有害事象は観察されなかった。口腔内メラノーマ症例7頭のうち、1頭で明らかな腫瘍の退縮が認められ、CTによる画像診断で本治療試験における部分奏功(PR)の基準を満たした(RECISTおよびirRCより改変)。他の2頭は未分化肉腫症例であったが、うち1頭で全身の転移巣の退縮がCT上で確認された(PR)。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画どおり、in vitroでのイヌPD-1/PD-L1経路の機能解析やイヌ腫瘍におけるPD-1/PD-L1発現解析を終了し、臨床研究を始める土台が完成した。また治療用抗体の大量発現系の樹立では、最大1-2 g/Lの発現量をもつ細胞株の樹立を目指していたが、現在0.7 g/Lの抗体を発現する細胞を樹立することに成功し、おおむね目標を達成した。健康犬を用いた安全性試験を経て、臨床研究を開始しすでに一定の治療効果を確認した。また懸念される免疫関連の副作用も現時点では観察されておらず、現在までのところ大きな障害もなく研究は進行している。ネコの腫瘍においても同様の治療戦略が応用可能であるか検討を始めたが、イヌで使用している抗体がネコPD-L1に交差反応性を示さなかったため、機能解析や発現解析はいまだ着手できていない。現在ネコPD-L1に対する抗体を作製中であり、完成次第順次解析を進めていく予定である。
臨床研究を継続し、さらにイヌ腫瘍に対する抗PD-L1抗体の治療効果や安全性について検討を行う。治療用抗体の血中濃度を測定し、最適な投与量や投与間隔について検討を行う。他の薬剤との併用で治療効果が改善される可能性が報告されているため、併用療法についても検討を開始する。単剤での評価はn = 15程度、併用での評価もn = 5以上を目指す。ネコ用抗体が樹立され次第、ネコの腫瘍治療に向けた機能解析・発現解析を行う。もし免疫活性化効果を持つ抗体があればネコ治療用抗体の作製に着手する。
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PLoS One
巻: 11(6) ページ: e0157176
10.1371/journal.pone.0157176