研究実績の概要 |
当該年度は、カゴメ格子反強磁性体におけるスピンフラストレーション効果の解明を目指し、磁性イオンがカゴメ格子を有する秩序型変型パイロクロア弗化物A2BM3F12(A, B:アルカリ金属、M:3d遷移金属)の開拓及びその基礎物性測定を行った。合成に成功していたM = Ti, Vの系のそれぞれ三つの新物質Rb2NaM3F12, Cs2NaM3F12とCs2KM3F12に加え、新たにCr系の二つの新物質Cs2NaCr3F12とCs2KCr3F12を発見した。またM = Ti, V, Cr系(S = 1/2~3/2)のいずれの化合物についても、2.5×2.5×1 mm3程度の大きさの単結晶の育成に成功し、得られた単結晶を用いて磁化測定や比熱測定を行った。 Ti, V, Cr系のいずれの化合物もワイス温度が -45 K程度であり反強磁性的相互作用が支配的であることが明らかになった。量子揺らぎ効果が大きいと予想されるTi系の三つの化合物は全て1.3 Kまで磁気秩序の兆候を示さない。また、カゴメ格子の歪みの大きさに応じて三つの化合物の基底状態は系統的に変化する。一方、 V系の三つの化合物は全て、高温から大きな磁気異方性を示し、低温で磁気秩序を形成することが判明した。C系の二つの化合物も低温で磁気秩序を形成し、磁気相転移温度以下では磁気異方性が現れることが分かった。 さらに、M = Ti, V, Crのいずれの系においても、強磁場磁化過程において飽和磁化の1/3程度の磁化でプラトー的挙動を発見した。Ti系とCr系の化合物では印加磁場の方向によらず、1/3磁化プラトーの徴候が現れる一方で、V 系の三つの化合物では、カゴメ面に垂直に磁場を印加した場合に明瞭な1/3磁化プラトー及び2/3磁化プラトーが現れることが明らかになった。 これらの系統的研究から得られた結果は、カゴメ格子反強磁性体における基底状態や強磁場磁化過程に対する統一的な理解につながる。
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