研究課題/領域番号 |
15J02016
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安酸 香織 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 神聖ローマ帝国 / フランス王国 / エルザス(アルザス) / 近世国家形成 / 対外関係 / 政治文化 / ウェストファリア条約 / 十帝国都市 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世国家形成を、王権による一方的な地域の制度的・法的統合としてではなく、王権と地方諸権力の相互交渉および相互作用の過程として描き直す試みである。その際に研究対象とするエルザス(アルザス)は、1648年のウェストファリア条約とその後の戦争および和平の結果、神聖ローマ帝国からフランス王国へ移行した地域である。本研究は、エルザスの地域諸権力が特権を維持するために行った交渉、そこで用いることのできた手段、ならびに皇帝への忠誠や帝国における人的な結びつきなどに注目し、フランスによるエルザスの統合という従来の理解が見落としてきた諸相を浮き彫りにする。 本年度は、具体的に二つの作業を行った。第一に、ウェストファリア講和会議(1643-48)においてエルザス譲渡が取り決められた経緯、ならびにフランス王と神聖ローマ皇帝の政治的意図を検討し、その成果を研究会の口頭報告および学術論文として発表した。第二に、1648年以降のウェストファリア条約適用について、フランス王と最も早く紛争に至った十帝国都市を対象とし、この問題の解決のために神聖ローマ帝国の帝国議会で行われた調停を中心に考察し、その成果を学術論文として発表した。 以上の研究成果は、主に二つの意義を有している。第一に、1648年以降のエルザス史を単に大国の利害に翻弄された係争地の歴史として描くのではなく、エルザスにおける複数のアクターがフランス王国と神聖ローマ帝国におけるネットワークや紛争解決手段を用いて状況変化に対応していく過程として描き直したことである。この成果は、近代国民国家成立以降のエルザス史との比較により、今後さらなる重要性を提示できるものと思われる。第二に、エルザスという地域に注目することは、長らく国際関係ないし国家間関係に限定されてきた近世外交を、日常レベルの対外関係として描き直す可能性をもつことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、二本の論文を学会誌に発表するとともに、フランス史研究者の研究会において口頭発表を行い、当初の計画以上の成果があったといえる。 関西フランス史研究会では、修士論文および前年度の研究成果を口頭で報告し、質疑応答を行った。そこでのフランス史研究者との議論は、研究の方向性や意義を見直す最良の機会となった。これを踏まえて研究を発展させ、『北大史学』と『西洋史研究』に論文を発表した。それに伴い、さまざまな研究者から有意義な指摘ないし助言を受けることができた。これらの研究成果は、博士論文のおおよそ半分を構成するものである。 2017年1月からフランスにおいて在外実地研究を行い、主にアルザスのバ・ラン県立文書館に所蔵されている史料の読解に取り組んだ。この作業は、今後これらの史料を日常レベルの対外関係という観点から考察する際の基礎をなすものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は2017年9月まで在外実地研究を継続し、バ・ラン県立文書館のほか、フランスのパリ、ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州、オーストリアのウィーンにおける各文書館で史料の収集・読解を行う。考察対象はエルザスの一地域権力としてのシュトラースブルク司教であり、司教が特権維持のためにウィーン宮廷とヴェルサイユ宮廷で行った交渉、ならびにライン川両岸における司教領の統治について考察する。 帰国後に研究成果を学会誌に発表し、それを踏まえて博士論文の執筆を開始する。
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