研究課題/領域番号 |
15J02054
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小島 慧一 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 視物質 / 光受容タンパク質 / 分子進化 / Gタンパク質 |
研究実績の概要 |
多くの脊椎動物の網膜には2種類の視細胞、桿体と錐体が存在するが、暗所視を担う桿体視細胞は錐体視細胞に比べて極めて高い光感度を有する。そこで、本研究では桿体視細胞で機能するロドプシンが錐体視物質からの分子進化の過程で、どのようなアミノ酸残基の置換を経て、暗所視に必須な分子特性(高いGタンパク質活性化効率と低い熱活性化頻度)を獲得したのかを明らかにすることを目指した。 ロドプシンと錐体視物質の変異体を用いた解析から、N末端側から122のグルタミン酸(E122)と189番目のイソロイシン(I189)がロドプシンが示す暗所視に必須な分子特性の獲得に重要であることが分かった。さらに、円口類であるヤツメウナギのロドプシンでは、他のロドプシンと同様にE122を持つものの、189番目は錐体視物質で保存されているプロリンを持つため、分子特性の特殊化が進んでいない可能性があった。そこでヤツメウナギロドプシンの分子特性を測定したところ、ロドプシンと錐体視物質の中間的な性質を示すことが分かった。このことから、ロドプシンは錐体視物質から分岐した時点ではI189は獲得しておらず、円口類ロドプシンが分岐した後にI189を獲得し、さらに分子特性を特殊化させたことが分かった。 また、例外的に桿体視細胞に発現する錐体視物質の熱活性化頻度を測定したところ、カエル青錐体視物質や夜行性オオヤモリ緑錐体視物質はロドプシンと同様に低い熱活性化頻度を示す一方で、サンショウウオ青錐体視物質では一般的な錐体視物質と同様に高い熱活性化頻度を示すことが分かった。さらに、野生型視物質・変異体の解析を通じて、熱活性化頻度は活性状態の安定性と強い相関を示すことも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロドプシンの分子特性の獲得に重要な役割を果たしたアミノ酸残基を特定し、ヤツメウナギロドプシンがロドプシンと錐体視物質の中間的な分子特性・アミノ酸残基を示すことを確認することで、本課題研究の主要な目的の一つであった、ロドプシンの錐体視物質からの分子進化の過程を明らかにすることに成功した。 また、例外的に桿体視細胞に発現する錐体視物質を解析し、カエルの青錐体視物質と夜行性オオヤモリの緑錐体視物質がロドプシン様の分子特性を獲得しているものを発見した。測定したすべての野生型視物質、変異体において熱活性化頻度と活性状態の安定性の間には強い相関が見られたことから、ロドプシンと桿体視細胞に発現する錐体視物質の一部は、異なるアミノ酸残基の獲得によって、活性状態の安定性の上昇と同時に熱活性化頻度を低下させたと考えられた。 以上のように、最終目標である「ロドプシンを含めた視物質の暗所視に必須な分子特性の獲得メカニズム」が明らかになりつつあり、計画通りに研究は進んでいると結論付けられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ロドプシンと錐体視物質の変異体の解析を更に進め、熱活性化頻度と活性状態の安定性などを測定し、ロドプシンの分子特性の獲得メカニズムのより詳細な解明を目指す。 また、桿体視細胞に発現する錐体視物質として、まだ分子特性が測定できていない夜行性オオヤモリの赤錐体視物質、UV錐体視物質の測定を行い、ロドプシン様の分子特性を示すのか確認する。さらに、桿体視細胞に発現する錐体視物質の中で、ロドプシン様の熱活性化頻度を示すものが、どのようなアミノ酸残基の獲得によるのかを明らかにするため、熱活性化頻度の異なる錐体視物質間でアミノ酸配列の比較を行うことで、候補となる残基を絞りだし、変異体解析を通じて熱活性化頻度の制御に関わる残基の特定を目指す。 最後に、視物質全体として、暗所視に必須な分子特性の獲得メカニズムについて考察を行う。
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