研究課題/領域番号 |
15J02060
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中山 亮 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 水素 / イオンビーム / チタン酸ストロンチウム / 金属的伝導性 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は低温でのプロトンビーム照射を用いて、既存物質に水素を導入することで機能性材料に変換することである。本手法を用いれば、従来の手法では水素を導入できなかった物質にも水素を自在に導入することができる。また、これまで開発した温度可変in-situ電気伝導度測定が可能なプロトンビーム照射装置により、我々はこの水素導入による物性変化を評価可能となる。そのため、水素を用いて物性・機能性を自在に制御する、水素機能性科学の開拓が期待される。本年度は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に対する低温でのプロトンビーム照射を行い、その照射効果を詳細に調べた。SrTiO3は3.2 eVのエネルギーギャップを持つバンド絶縁体であるが、金属元素のドープや電気化学的手法でキャリアドープを行えば、最も低キャリア濃度で超伝導を示す物質として知られる。しかし、その一方で、SrTiO3の電気伝導性を水素によって制御する研究は少なく、低温でのプロトンビーム照射により高濃度に水素導入したときの物性変化を調べた報告例はない。そこで、低温でのプロトンビーム照射による、SrTiO3の電気伝導性の制御を行った。申請者は、SrTiO3薄膜試料に対して300 K及び150 Kでそれぞれ、プロトンビーム照射を行った。その結果、in-situ電気伝導度測定により、どちらの場合においても電気抵抗率の急激な減少と金属的な伝導性を観測することに成功した。また、抵抗率を比較すると、150 Kで照射した試料の方が約一桁低い抵抗率を示した。さらに、150 Kの照射後の昇温過程において、水素の脱離を示唆する抵抗率の不可逆な増加を観測した。これは本研究の狙い通り、低温でのプロトンビーム照射が高濃度の水素導入及びそれによる物性制御の強力な手段であることを示す重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、チタン酸ストロンチウムへの低温でのプロトンビーム照射を行うことで、室温での照射と比べて高濃度の水素を導入し、抵抗率をより一桁大きく減少させることに成功し、金属的な伝導性を示すことを見出した。これは導入された水素が酸素と水素結合を形成し、格子間位置を占め、ドナーとして働いていたためだと考えられる。この研究成果は既に日本化学会春年会にて口頭で報告しており、分子化学討論会など様々な学会で報告する予定である。チタン酸ストロンチウムの超伝導転移の機構には、酸素の零点振動に起因する量子誘電性が関係すると言われている。そのため、プロトンビーム照射で高濃度に水素を導入したチタン酸ストロンチウムにおいては、酸素と水素の量子性が絡んだ新規な超伝導状態を観測できる可能性が期待され、新しい水素機能性科学の開拓につながるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、RFマグネトロンスパッタリング法やパルスレーザー堆積法などを用いて、既に有望な結果が得られている酸化物を中心に様々な薄膜試料を作成し、低温でのプロトンビーム照射による物性変換を目指す。低温での照射効果についてはin-situ伝導度測定を行い明らかにする。また、UV, IR, Raman等の分光測定やXRD、Hall効果の測定を行うことで、物性・電子状態・構造に対する照射効果を詳細に調べる。さらに、必要に応じて二次イオン質量分析法を活用し、実際に試料に導入された水素導入量を確かめる。既に有望な結果が得られている酸化亜鉛やチタン酸ストロンチウム薄膜に対しては低温での重水素イオンビーム照射を行い、同位体効果の有無を調べる。キャリアドープされたチタン酸ストロンチウムは数百mK程度の極低温において超伝導転移を起こすことが知られている。その起源にはチタン酸ストロンチウムの量子誘電性が関わっているとも言われており、水素イオンビーム照射により高濃度の水素導入によりキャリアドープされたときに、水素の量子性が転移温度に与える影響は興味が持たれる。そこで、ex-situでの極低温電気抵抗測定による超伝導の観測を目指して実験を行う。さらに、特に優れた結果が得られた実験結果をとりまとめて、分子科学討論会、応用物理学会、日本化学会春季年会などの学会に参加し、積極的に情報発信を行う。
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