研究課題/領域番号 |
15J02066
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三品 達平 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | エコゲノミクス / ゲノム進化 / 性の進化 / 雌性発生 / アリル特異発現 / 次世代シーケンサー / フナ |
研究実績の概要 |
頻繁な倍数性変化に伴い有性型2倍体から稀な遺伝子流動を受ける3倍体フナ類(雌性発生)は、無性生殖と倍数性変化という二つの大きな困難に直面する。多様な環境で生息している3倍体フナ類に働く自然選択のパターンをゲノムワイドに解明することで、性や倍数性の理解を深めることが本研究の目的である。第2年度目である平成28年度は、交雑様のゲノム組成をもつ3倍体フナ類のアリルレベルでの発現パターンの解明を進めた。 異なるmtDNA系統の2倍体および3倍体フナについてRNAシーケンシングを行った。3倍体フナについて、一方の祖先親種由来のアリルの発現を顕著に抑制している遺伝子群の傾向を調べたところ、複数のmtDNA系統の3倍体フナで共通して、一部の遺伝子機能群で一方の祖先親種由来のアリル発現抑制していることが明らかとなった。この結果は,アリルレベルでの発現制御が、脊椎動物における異質倍数化に伴う遺伝的不和合や遺伝子コピー数の増加といった問題を解決する重要な機構となりうることを示唆する。この成果は日本進化学会で発表し最優秀ポスター賞を受賞した。また、フナ類のドラフトゲノムを得るために、合成ロングリードを用いた全ゲノムシーケンシングを行った。アセンブルを行い、Scaffold N50で0.85 Mbのドラフトゲノムが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頻繁な倍数性変化を経験する3倍体フナ類における倍数化によるコピー数増加によって生じる問題の緩和(遺伝子量効果補償の機構)と、自然選択をゲノムワイドに検証することが本研究の目的である。そのために、(1)3倍体フナのアリル特異発現パターンを解明すること、(2)高密度遺伝子連鎖地図の作製すること、そして(3)ゲノム上の3倍体フナに固有なアリル/領域や有性型2倍体からの遺伝子流動を受けやすい領域を探索することを主要な課題として掲げている。 第2年度目である平成28年度は、交雑様のゲノム組成をもつ3倍体フナ類のアリル発現解析を主に進めた。複数系統の3倍体フナ類について、遺伝子ごとのアリル組成がゲノムワイドに明らかになったことで、今後の研究を進める強固な地盤が形成できた。さらに、一方の祖先親種由来のアリルのみが顕著に発現している遺伝子群が明らかとなったことで,当初に掲げた目標を達成できた。 高密度遺伝子連鎖地図に関しては、RNAseqを用いたフナ類における高密度連鎖地図が出版されたため、より先進的な解析が可能な新規ゲノム決定を進めた。最新の合成ロングリードを用いた、全ゲノムシーケンシングを行い、予備的な解析においてScaffold N50で0.85Mbのドラフトゲノムが得られた。これにより、3倍体フナが受ける自然選択の痕跡を検出する解析を行うための土台ができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成29年度は、まずはフナのドラフトゲノムの質の改善を進める。新たに長鎖DNA塩基配列を大量に取得し、これまでに得られている合成ロングリードの塩基配列データと併せてアセンブルする。そして,フナ類の高密度連鎖地図からScaffoldの染色体上の位置を特定する。最近の全ゲノム倍化後のゲノム進化パターンに関する解析を行い、成果を日本魚類学会などで発表し、国際誌に投稿する。 3倍体フナで、一部の遺伝子機能群で一方の祖先親種由来のアリルを発現抑制していることが明らかとなった。今年度は、この発現抑制の至近要因として、メチル化に着目して解析を進める。複数系統の2倍体と3倍体について、ゲノムワイドにメチル化領域の探索を行い、2倍体と3倍体間での比較および、アリル発現パターンとの対応をみることで検証する。そして、得られた成果を国際誌に投稿する。 3倍体フナにおける自然選択の検出と、進化過程および有性型2倍体からの遺伝子流動の頻度と組換え頻度の推定を行う。このために、複数地点・多数個体の2倍体と3倍体についてRAD-seqを行う。そして、3倍体の遺伝子組成をゲノムワイドに明らかにし、進化過程の復元をする。さらに、3倍体に固有なSNPの探索、有性2倍体からの遺伝子流動を受けやすい領域の探索を行い、成果を日本生態学会などで発表し、国際誌に投稿する。
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