研究課題/領域番号 |
15J02107
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上村 尚平 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | 超弦理論現象論 / ブレーン模型 / ヒッグス場の物理 / フレーバー物理 / 余剰次元模型 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は超弦理論の非摂動効果であるEブレーンの効果を研究することで、標準模型のような現実的な模型を超弦理論から導出し、その現象論を調べるというものである。2015年度の研究の成果は主に次の二つである。 一つはEブレーンの生成するヒッグス場のミュータームについての研究成果である。超対称拡張された標準模型は標準模型の階層性問題の回答として有力な模型だが、そのような模型でで電弱相転移が電弱スケールで起こるためには、ヒッグスのμタームが不自然に小さくなければならないと知られている。一方Dブレーン模型の場合、ミュータームはEブレーンの効果で非摂動的に生成される。我々はトーラスコンパクト化したときのEブレーンの効果を調べ、非摂動的に現れるミュータームを計算した。その結果、複数のヒッグスが存在するときミュータームの固有値の間に10桁以上の大きな階層性が自然に現れることがわかった。これからミュータームがなぜ不自然に小さいかを理解することが出来る可能性を示した。 もう一つの成果はorbifold上のrigid cycleに巻き付いたE2ブレーンが生成するニュートリノのマヨナラ質量項について研究である。rigid cycleに巻き付いたE2ブレーンはスーパーポテンシャルへの非摂動的な補正項へ寄与する。このorbifold上でE2ブレーンが生成する3世代のニュートリノのマヨナラ質量項を計算した結果、いくつかの場合で3世代のうち2世代を入れ替えるような対称性を持つニュートリノマヨナラ質量項が得られた。また別の場合ではそのような対称性は現れなかった。さらにこの対称性の起源はコンパクト空間のブレーンの配置の幾何学的な対称性と考えることが出来るとわかった。さらにこの対称性からニュートリノの大きな混合角を説明できることを示した。 以上のことをまとめて2本の論文を発表し、5つの研究会で口頭発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画は1年目に①レプトンのフレーバー構造実現する模型の構築②クォークのフレーバー構造の分類③ヒッグスの構造、という3つのテーマについて研究を進める計画であった。 そのうち①のレプトンのフレーバー構造を実現する模型の構築という点については、ニュートリノのマヨラナ質量項の研究を通じて進展があった。ニュートリノの混合角は観測されており、その結果混合角は大きいとわかっている。我々の結果はマヨナラ質量項に大きな混合角があり、それでもってニュートリノの混合角が説明できる可能性がある。実際、我々はtoroidal orbifold上のニュートリノとヒッグスの湯川結合を計算し、観測値を実現できるパラメータ領域が存在することを確認した。 ③のヒッグス場についてもミュータームの研究によりポテンシャルを説明できる可能性が示されており進展があった。我々の結果は複数のヒッグス場が存在するとき、そのミューターム行列の固有値の間に大きな階層性が現れるということを示しているが、実際Dブレーン模型には複数のヒッグス場が存在することが多いということが知られており、この結果から電弱スケールとプランクスケールの階層性を説明することが可能と考えることが出来る。 ただ一方で②のクォークのフレーバー構造についてはまだまとまっておらず、現在も研究を進めているところである。 以上のように、今のところ研究は計画と比べておおむね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の研究計画をもとに研究を進めていく。当初の研究計画では2年目には①クォークのフレーバー構造を実現するモデルの構築②インフレーション、モジュライへの応用、という二つのテーマについて研究を行い、最終的に、③それまでの結果を全て実現するような模型を構築する、というものであった。 前の項目で述べたように、クォークのフレーバー構造については遅れている部分もあるので、まずはそこについて調べて結果を得る。 そしてすべての結果が同時に実現できるような模型を作り、Dブレーン模型から標準模型のような現実的な模型を構築することを目指す。また同時にDブレーン模型に存在するモジュライ場やhidden sectorを考えることで、インフレーションなどの標準模型を超えた物理の予言を試みる。
|