研究課題/領域番号 |
15J02131
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 遥一 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 非弾性散乱 / 紫外液体光電子分光 / 真空紫外液体光電子分光 / フィラメンテーション4光波混合 |
研究実績の概要 |
本年度は以前より進行中であった液体光電子分光における電子散乱の研究と高エネルギー超短パルス光源の開発を並行して行った。 液体光電子分光における電子散乱の研究では紫外パルス光源(3.4-5.2 eV)を用いて水和電子スペクトルのプローブ波長依存性を測定した。水和電子の束縛エネルギーおよびスペクトル幅はプローブ波長が短くなるにつれて大きくなった。これは溶液バルク中の水和電子から発生した光電子が液体表面から真空中に飛び出すまでに溶媒によって非弾性散乱を受けているためと解釈できた。紫外液体光電子分光において非弾性散乱の影響を明らかにした研究はこれが初めてであり、液体光電子分光の知見が深まった。また、高次高調波の実験に先立って、90 nmの真空紫外パルス光によって水和電子の束縛エネルギーの測定を行い、水和電子の信号を観測することに成功した。一方で、水のイオン化エネルギーを超える光子エネルギーをもつ光源では溶媒から膨大な背景信号が観測されること、また光電子間の反発による運動エネルギーのシフトが起こることがわかった。以上をまとめ、米国化学会の学術誌に発表した。 以上の結果を受けて、光源開発の部分では予定を変更しフィラメンテーション4光波混合を用いた真空紫外パルス光源の開発を行った。新規に光路を製作し、800 nmパルスと400 nmパルスをアルゴンガス中で同軸に集光することで4光波混合によって基本波800 nmの6次までの高調波を発生させた。3倍波、4倍波についてはそれぞれ3 μJ, 200 nJの出力が確認されており液体の光電子分光には十分な強度である。また、これらのスペクトル幅から計算されるフーリエ限界幅は30 fs程度であり、十分な時間分解能を達成できると期待される。5倍波、6倍波については発生を確認したが、正確な出力、スペクトルについては現在測定準備を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の変更こそあったものの目的とする真空紫外超短パルス光源の開発は順調に進んでおり、光源の評価を進める段階まで進むことが出来ている。発生した3倍波、4倍波ではそれぞれ3 μJ/pulse, 200 nJ/pulseと光電子分光に十分な強度が得られている。また、スペクトル幅から計算される時間分解能は3倍波、4倍波ともに30 fsであり、高速ダイナミクスを観測するのに十分な時間分解能が得られている。また、90 nmの真空紫外光源で先立って液体光電子分光を行うことが出来たのは非常に大きな収穫であり、真空紫外での液体光電子分光における実験の方法論、注意すべき点、問題点について理解することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
先にも述べたとおり、真空紫外光源発生方法を高次高調波からフィラメンテーション4光波混合に変更した。これは、先立って行った90 nmでの実験から水のイオン化エネルギーを超えた光源では液体の光電子分光に不利であると判断したためである。光源のエネルギーこそ変わったが来年度の計画に大きな変更は無く、開発した光源の評価が終わり次第、液体の光電子分光へと応用をすすめる。
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