平成28年度は開発した134 nm真空紫外超短パルスを評価するとともに、時間分解光電子分光へと応用した。 134 nmパルス発生には4光波混合と、400 nmの三次高調波発生の2つの方法がある。前者はポンプ光である267 nm、プローブ光である134 nmをともに真空中で発生できるため時間分解能に優れており、Xeガスの非共鳴2光子過程によって放出された光電子強度から推定された時間分解能は40 fsであった。後者はポンプ光を大気中で別途発生させる必要があるため分散媒質によってポンプ光のパルス幅が伸長し、時間分解能は100 fsであった。出力は前者に比べて強くサンプル位置で1.4 nJの出力が得られた。 はじめに、後者を用いてピラジン蒸気について実験を行ったところ明瞭なポンプ-プローブ信号を検出し、時間分解光電子分光に必要な134 nmパルスの出力が得られていることが確認できた。 次に134 nmパルスによって水和電子の観測を試みた。0.5 M フェロシアン化カリウム水溶液を用いて実験を行った。フェロシアン化物イオンに比べて非常に小さいが水和電子の信号が確認された。134 nmパルスによって発生する光電子量を変化させても水和電子のピーク位置は不変であり、発生した光電子間の反発によるスペースチャージは無視できる程度であることがわかった。このことは昨年度発表した13.6 eVのプローブ光を使った実験とは対照的であり、水の直接イオン化エネルギー11.2 eVよりも小さな光子エネルギー9.2 eVの光源を開発した利点である。 また、昨年度測定した水和電子スペクトルの波長依存性についてスイス連邦工科大学チューリッヒ校のグループとの共同研究で電子の溶媒による散乱モデルに基づいた解析を行い散乱の影響を除いた水和電子のスペクトルを算出し、米国科学振興協会の学術誌に発表した。
|