研究課題/領域番号 |
15J02139
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
髙部 涼太 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽電池 / シリサイド半導体 / 表面パッシベーション |
研究実績の概要 |
本年度は、BaSi2の表面キャップ層であるa-Si層の厚さがBaSi2太陽電池に与える影響を中心に調べた。昨年度までに、a-Siキャップ層がBaSi2の表面パッシベーション層およびホール輸送層として働くことを明らかにした。この時、a-Si層の膜厚がBaSi2太陽電池特性に大きな影響を与えることが予想できる。先行研究のHIT型Si太陽電池では、a-Si層の厚さが界面での少数キャリア輸送および再結合に重大な影響を与えていたため、変換効率が大きく変化した。そこで本年度は、MBE法によってa-Si/p-BaSi2/n-Siヘテロ接合太陽電池を作製し、a-Si層の膜厚が太陽電池特性に与える効果を評価した。a-Siの膜厚を 0.7, 2, 3, 5 nmに変えたところ、変換効率は3 nmで最大値を取り、それ以外のところでは変換効率が低下した。その原因を調べるために、太陽電池の直列抵抗を調べた結果、a-Siが 3 nmよりも薄い範囲で直列抵抗が急激に増加していた。これは、a-Si層中で酸素をブロックすることが出来ず、BaSi2表面で酸化絶縁膜が形成したためであると考えている。また、a-Siの厚さが2 nmと5 nmの試料の外部量子効率スペクトルを比較すると、a-Siのバンドギャップに相当する1.7 eVよりも大きなエネルギーを持つフォトンに対して、外部量子効率が顕著に減少していた。そのため、a-Siの厚さが3 nmよりも厚い範囲ではa-Si層中で光吸収が起こったために変換効率が低下したと考えられる。以上より、da-Siの最適値は3 nmであることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究で、大気暴露時間を増やすことでp-BaSi2/n-Siヘテロ接合太陽電池の変換効率が向上することが明らかになった。これは、ペロブスカイト太陽電池のように急激に経時劣化しないことを表しており、BaSi2太陽電池の長期的な安定動作に寄与する大きな発見をしたと考えている。また、BaSi2の表面パッシベーション層であるa-Siの最適な膜厚は3 nmであることも明らかにした。この結果は、p-BaSi2/n-Siヘテロ接合太陽電池だけでなく、BaSi2を用いたあらゆる太陽電池構造に応用可能であるため、p-BaSi2/n-BaSi2ホモ接合太陽電池の実現に向けて大きな一歩を踏み出したといえる。更に、p-BaSi2/n-Geヘテロ接合という全く新しい構造で太陽電池動作を実現した。結晶成長の観点ではいくつか問題があるが、これらの成果は期待していた以上のものである。以上より、本年度の研究は順調に進んだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、p-BaSi2/n-Siヘテロ接合太陽電池の更なる高効率化、およびBaSi2ホモ接合太陽電池の実現に向けて、BaSi2光吸収層の更なる高品質化を目指す。BaSi2結晶はBaとSiを同時供給して反応するMBE法によって成長するが、その際のBa/Siフラックス比によって結晶中に導入される欠陥の種類、および密度が変化すると予想される。そのため、Ba/Siフラックス比がBaSi2の諸特性に与える影響を調べ、分光感度特性が最も良くなる成長条件を探索する予定である。また、p-BaSi2/n-Geヘテロ接合太陽電池の高効率化に向けて、結晶成長方法を見直す必要があると考えている。具体的には、リーク電流の原因となっているSi結晶粒析出を抑制するために、MBE成長中のBa/Siフラックス比を精密に制御することを考えている。
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