研究実績の概要 |
2015年末まで走ったKamLAND-Zen 400は最も厳しい制限をつけた. 次期フェーズとなるKamLAND-Zen 800では長年用いられてきた信頼性と開発手法の確立から, 発光性バルーンではなくナイロン製バルーンのインストールが決まった. ナイロン製ミニバルーンの含有放射性不純物は, 超音波洗浄によってO(10^-12)g/gにまで低減されるが, バルーン形状への加工時に汚れてしまう. これはZen400でのインストール前後のバルーンに含まれる放射性不純物量から明らかになっており, 本年度の新ミニバルーンでは超音波洗浄直後の純度を維持したまま製作することを第一目標に置き、クリーンルームの環境維持のための極低放射能化技術の確立を行った. 2016年夏に新ミニバルーンのインストールに成功し, その背景事象測定の結果から, 超音波洗浄直後のICP-MS分析値と誤差範囲内で一致することが確かめられた. 2016年秋にインストールした新ミニバルーンにリークが発見されたため, 新ミニバルーンの引き抜き&原因究明を行った.現在はその対策を施しており, 再作製することで本年度中に再開する見込みとなっている. 発光性能をもったバルーンなどを用いた解析的除去法を向上させることも将来的には不可欠になる. ただし, 今回のナイロン製ミニバルーンでさえ溶着不備が見つかったばかりか, 補修にもかなり苦労したのが現状である. ここでポリエチレン樹脂は熱溶着しにくく(一般にできないと言われているが, パラメータによってはできることを明らかにした), さらに接着剤による補修もしにくい(一般にできないと言われているが, 接着可能なものを見出した). そのため, ポリエチレン樹脂におけるバルーン形状整形方法は現行のナイロン製ミニバルーンと同様のものに限らずに確立していく必要があることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年秋にスタート予定であったKamLAND-Zen800だが, 新ミニバルーンインストール後にリークが発見されたためにXeを溶かし込む前に引き上げた. 液体シンチレータにまみれた状態のバルーンをリーク補修するのは非常に難しく, また洗浄することが不可能である. 液体シンチレータは空気中のラドンを大量に吸着するために, 引き上げ後のバルーンは放射性不純物的に非常に汚く, Zen800で目標とするO(10^-12) [g/g]の極低放射能化を明らかに達せられない. リーク原因は, 熱溶着時の圧力不足と加熱向きの不一致によるものであった. 現在はその対策を施した特注溶着機を設計・製作し, 溶着のための最適パラメータサーチをやり直しているところである. その再作製のためにZen800のスタートが一年遅れる見込みである.
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今後の研究の推進方策 |
バルーンの極低放射能化技術に関しては, リークが発見されたものの, 今回作成したバルーン作業時によってほぼ確立されていると考える. そのため, 溶着不良を起こさないよう反省を活かしながら対策を練ることで本年度中の再スタートができる見込みである. 2017年夏~秋にかけてナイロン製新ミニバルーンのインストールを行い, 世界最大クラスの崩壊核質量である800 kgのキセノンを用いてニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索を始める. 発光性バルーンは, 技術確立されていると思われていたナイロンでさえ今回のようなトラブルがあったため, 他の方法でバルーン形状にすることを考える. 一般にポリエチレン樹脂は, プライマーなしで溶着・接着できるものではないため, 射出成形などで成形する方法も視野に入れる. この際, KamLANDではそのインストールするためのフランジ口径が狭いため, 折りたためる構造にする必要がある. もしくは口径と同じ小さいサイズのバルーン(バルーン形状でなくとも円柱形状など)にする必要がある. 従来のKamLANDバルーンの形にとらわれない使用方法を模索する.
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