研究課題/領域番号 |
15J02220
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
千葉 杏子 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | Kinesin-1 / 軸索輸送 / APP / リン酸化 |
研究実績の概要 |
主要なモータータンパク質であるKinesin-1はアルツハイマー病原因タンパク質APPをはじめとした様々な積み荷(カーゴ)を輸送し、細胞の機能維持に重要な役割を果たしている。本研究ではKinesin-1構成因子であるKLC1とその結合タンパク質JIP1bに着目し、両者の結合状態を変化させる機構、および結合変化がKinesin-1によるAPP輸送に果たす役割について解析を行った。KLC1は分子内に複数のリン酸化サイトを有するが、その中でもJIP1bとの主要な結合部位であるKLC1 TPRドメイン内にJIP1bとの結合を制御するリン酸化部位を同定した。決定した部位をリン酸化状態を模したグルタミン酸に置換することでJIP1bとの結合強度は減少する。この変異体を用いて決定した部位のリン酸化がAPP輸送に果たす役割の検証を行った。EGFPタグを付加したAPPを神経細胞に発現させ、突起中APP小胞の観察を行ったところ、APP小胞の順行性輸送速度は、野生型KLC1共発現時はAPP単独発現時と同等であったが、KLC1リン酸化模倣変異体の共発現下では輸送速度は有意に低下し、JIP1の発現抑制を行った細胞と同程度であることが明らかとなった。またリン酸化特異抗体を作成し、リン酸化KLC1の検出を行った。その結果、JIP1bに結合するKLC1中のリン酸化レベルはKLC1全体に占めるリン酸化体の割合より有意に低いことを示した。これらの結果よりKLC1のリン酸化はJIP1bとの結合状態を一部変化させることでKinesin-1モーターによる輸送速度を制御することを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の予定としていたJIP1bとの結合を制御するKLC1リン酸化部位の同定およびリン酸化模倣変異体がAPP輸送に果たす役割について検証することが出来たため、進歩状況は概ね期待通りであると考えている。2年目の研究で使用するリン酸化特異抗体も既に作成に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
APP輸送はアルツハイマー病発症との深い関連が示唆されている。KLC1リン酸化がアルツハイマー病発症に及ぼす影響について解析するため、より高感度なリン酸化特異抗体を作成し、リン酸化KLC1の検出系確立および生体からのリン酸化KLC1の検出を目指す。健常人と患者サンプル間でのリン酸化状態の比較、および加齢や細胞ストレスによる変化を解析することで、KLC1リン酸化およびそれに伴うAPP輸送の変化と、アルツハイマー病発症との関係性を明らかにすることが期待できる。また、リン酸化KLC1の細胞内局在、個体の発生過程における量や比率の変化を検出することで、KLC1のリン酸化が果たす生理的役割の解明につながると考えられる。
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