近年、細胞外マトリックス(ECM)の硬さという物理的な要因が組織幹細胞の分化方向性を調節していることが明らかになってきた。特に、ECMが軟らかいほど脂肪細胞へと分化しやすくなることが知られている。軟らかいECM上で間葉系幹細胞が脂肪細胞へと分化しやすくなる仕組みを明らかにするため、細胞とECMの接着領域に存在するタンパク質ビンキュリンに着目して研究を進めてきた。これまでの研究によって、硬い基板上でビンキュリンがアクチン繊維親和型へと構造変化し、そのことにより転写因子YAPの核局在亢進を介して脂肪細胞への分化が抑制されていることが示唆されている。そこで、ビンキュリンの構造変化に必要なSORBSファミリータンパク質ビネキシン(SORBS3)とCAP(SORBS1)の役割について調べるため、まずビネキシンとCAPの発現を抑制した間葉系幹細胞株を樹立した。 ビネキシンとCAPはいずれも界面活性剤不溶性で評価されるビンキュリンの構造変化に必要であることがわかった。また、いずれのタンパク質も硬い基板上における転写因子YAPの核局在亢進に必要であることがわかった。最後に細胞分化に与える影響についても調べたところ、CAPはビンキュリン同様に、硬いECM上での脂肪細胞への分化を抑制した。一方ビネキシンは、予想に反して、脂肪細胞への分化を促進した。以上の結果より、ビンキュリン-SORBSタンパク質複合体はECMの硬さ感知および細胞運命の調節に重要な役割を果たしていることが明らかになった。またビネキシンは転写因子YAPとは独立して脂肪細胞への分化を促進する機能を持つことを新規に見出した。
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