当初目標としていたアルバネーゼ写像の分析では見るほどの成果が挙げられなかったが、モジュラス付き代数的サイクルについての研究で成果が出せた。これは代数多様体の閉部分集合の情報である代数的サイクルの無限遠でのふるまいを考慮に入れるもので、名前は類対論に使われる概念「モジュラス」を由来としている。したがって数体やp進体上の多様体の研究にも将来役に立つと期待される。 モジュラス付き代数的サイクルを用いて従来の(モジュラス無しの)方法に倣いコホモロジー理論を作ると、考察している多様体と無限遠部分のK理論の差である相対K理論と並行した性質を持つものになるはずであるというBloch氏とEsnault氏が10年余り前に提出したドグマがあった。このドグマには具体的な場合の計算により状況証拠はあったが、理論的にしっかりした像は描けていなかった。 28年度はこのドグマに裏付けを与えるべく、代数的K群から当該コホモロジー理論への非常に自然な比較写像の構成を岩佐亮明氏との協業により行なった。Bloch・Esnault両氏の提唱したプログラムの進行に弾みをつけるものであり満足している。写像の構成には代数的サイクル特有のテクニックを追究することに加え、従来の一般的枠組みに無限遠の付加情報を組み込む必要があったが、これによってできた無限遠情報の入った新たな枠組みは代数的サイクル以外の(無限遠を考慮する)コホモロジー理論にも適用できるはずであり、その面でも価値がある。
|