研究実績の概要 |
平成28年度は、J. S.ミルの政治思想におけるリベラリズム、功利主義、共和主義に関して、主として、ミルの古典古代論と卓越主義の理論の観点から研究を実施した。平成27年度では、主に理論的解釈の立場から研究を行っていたが、本年度では、理論的研究をより深化させるために、歴史的解釈も取り入れるように心がけた。 古典古代論は、前年度の研究においてその有用性が明らかになったが、より具体的な分析を行うために、ミルのテクストだけでなく、時代的文脈をふまえた研究を実施した。以上の考察をもとに、国際功利主義学会にて研究発表を実施した(The International Society for Utilitarian Studies, “Ancient and Modern: The Vision of John Stuart Mill’s Representative Democracy,” The 14th Conference, Lille, France, July 2016 )。この学会発表において、ミルに内在する古代的要素をふまえた研究は、比較的新規性の高いものであり、今後の研究発展が望まれる知見であるとのコメントを国内外の研究者らより受けた。一方で、卓越主義の理論は、前年度からの継続テーマであるが、本年度は上述した古典古代論との関係も視野に入れた研究を行った結果、ミルが卓越主義の理論を擁護している点が明らかになった。 以上の研究から、ミルの政治思想の源流として古典古代論が強い影響を与えており、その理論的帰結として卓越主義的側面も指摘されることが明らかになった。また、ミルの政治思想だけでなく、経済思想、哲学、教育学といった隣接領域との関連についても、今後検討する必要性が看取された。
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