Aspergillus flavusの生産するアフラトキシン(AF)によるナッツ類やトウモロコシの汚染は世界中で甚大な人的・経済的被害をもたらしている。A. flavusに対し効果的な殺菌剤は実用化されておらず、AF生産の特異的阻害剤の利用が期待される。ジオクタチンAとその合成誘導体であるジオクタチンに強いAF生産阻害活性が発見されているが、これらの薬剤の作用機構に関する詳しい知見は得られていない。未解明の部分の多いAF生産分子機構の解明の糸口を得ることを目的とし、ジオクタチンの作用機構の解明を行った。 ジオクタチン固定化ナノ磁気ビーズを調製し、A. flavus抽出タンパク質より結合タンパク質の精製を行ったところ、ジオクタチンに特異的に結合すると考えられるタンパク質が見出された。質量分析の結果、ジオクタチン結合タンパク質としてミトコンドリア局在性のClpプロテアーゼの触媒サブユニット(ClpP)が同定された。 ClpPはアンフォールディング活性を有するシャペロンと複合体を形成しており、シャペロンなしではClpPはタンパク質の分解を行えない。活性測定の結果、ジオクタチンはClpP単独によるカゼインタンパク質分解を可能とし、濃度依存的に促進することがわかった。次に、2D-DIGE解析によりClpPによるミトコンドリア抽出タンパク質の分解を調べたところ、呼吸鎖複合体などミトコンドリア機能に必須のタンパク質の分解がジオクタチン添加によって促進されることが示された。 以上の結果から、ジオクタチンはA. flavusのミトコンドリア内でClpPの異常活性を誘導し、ミトコンドリア機能を撹乱することでAF生産を阻害するとの機構が考えられた。この研究から、AF生産とミトコンドリア機能の関連が始めて示され、AF生産、引いては真菌の二次代謝の調節機構の解明に対する新たな知見が得られたと考えられる。
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