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2016 年度 実績報告書

近世期における仏教教団の出版物利用の実態解明と分析―書物研究の一環として―

研究課題

研究課題/領域番号 15J02368
研究機関一橋大学

研究代表者

万波 寿子  一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2015-04-24 – 2019-03-31
キーワード近世文学 / 近世仏教 / 出版学 / 書誌学 / メディア / 浄土真宗 / 西本願寺 / 仏書
研究実績の概要

仏書研究の意義を紹介しつつ、学界における出版学の到達点を示すことを目的とした平凡社の叢書『書物の文化史』第4巻に、「仏書・経典の出版と教団」と題して仏書出版の研究概要及び問題点を論じた。
一方で、本願寺史料研究所の資料を調査したところ、近世中後期の本願寺派屈指の学僧玄智の資料を得た。この史料とこれまで発見してきた資料と同史料を合わせると、西本願寺の出版活動を特徴付ける「御蔵板」の刊行は、最も格の高い書物である聖教の出版を行うことで本山の権威を示すという当初の目的から変化し、1700年末には他寺院の聖教出版を防止するために行動していることが理解された。同時に、これまで謎とされてきた玄智の晩年の不遇の理由や、西本願寺に隣接する興正寺とのトラブルを招いた、玄智が刊行した『真宗法彙』の出版権の移動ルートの解明などの成果を得たため、『国文学論叢』第62輯(龍谷大学国文学会編。平成29年2月刊行)に寄稿した。
さらに、龍谷大学に所蔵されていた『真宗法要開版始末』下巻、『悟澄開版本典ニ付大坂出張記録』の2点を翻刻し、西本願寺御蔵板の変遷について、近世的な価値観の中での格の高い書物という位置づけで始まった御蔵板も、その後は東本願寺との競合により常に切迫した状況となり、需要のあるものを的確に出版しなければならなくなったため、当初目指していた格の高さを持たない聖教を速やかに刊行したと結論するに至った。
加えて、以前発表した『妙好人伝』の出版に関する拙稿(「『妙好人伝』と『続妙好人伝』の出版と流通」、平成23年発表)が、真宗学上重要なテーマである「妙好人」研究における特筆すべき論文として、菊藤明道編『妙好人研究集成』に再録された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成28年4月1日からの研究再開準備支援期間(平成29年1月31日まで)を経て、平成29年2月1日より研究を正式に再開し、上記の研究課題に関して調査および研究を行った。
平成28年度の調査・研究は、大きく分けて3つである。まず、①近世期の西本願寺が残した出版に関する記録類の翻刻と分析、②西本願寺の出版活動である「御蔵板」について、その意味を通史的に把握することに加え、③近世期に出版された仏教関係書籍の調査を行った。
このうち、①に関しては、西本願寺御蔵板の嚆矢である『真宗法要』開板の経緯を詳細に記した『真宗法要開版始末』下巻の翻刻を、冷泉家時雨亭叢書顧問で元龍谷大学客員教授の藤本孝一氏に依頼した。また、大型の書型だけであった西本願寺の御蔵板本に小型本が加わるきっかけをあたえた悟澄本についての記録『悟澄開版本典ニ付大坂出張記録』一冊を、龍谷大学文学部特別専攻生の金子由里恵氏に依頼し、両資料を分析した。また、新たな史料として近世後期の西本願寺の僧玄智の聖教出版に関する書状の写しと、近世期最も普及した刊本のひとつであった『御文』の出版規則を記した『御文章之定』を発見した。
②については、これまでの成果と①の史料とこれまでの成果を合わせて考えると、「御蔵板」は、最も格の高い書物である聖教の出版を行い本山の権威を示すという当初の目的から変化し、1700年末には他寺院の聖教出版を防止するために行動している。その後は東本願寺との競合により常に切迫した状況となり、需要のあるものを的確に出版しなければならなくなったため、当初目指していた格の高さを持たない聖教を速やかに刊行したと結論するに至った。従って、②に関しては、ごく大まかな通史的把握ができたことと思う。
しかし、③に関しては、時間が不足し、十分ではなかったため、平成29年度、30年度とも行っていく予定である。

今後の研究の推進方策

平成29年度は、これまでの研究により得た成果を著書としてまとめることを主たる研究活動とする。すでに日本学術振興会より平成29年度科学研究費助成事業において、科学研究費補助金(研究成果公開促進費・課題番号:17HP5088)が内定しており、平成30年2月までの刊行を目指す。
したがって、今後は平成28年度までに得た西本願寺の出版活動の通史的な把握をより鮮明にすべく、真宗史はもちろん、近世史や文学史などに留意する。一人では難しいため、専門の研究者らとの交流に力を入れる。
ただし、著書の執筆と並行して、引き続き新しい史料の発見や、その翻刻と分析を行い、書誌調査も継続する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (2件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] 『真宗法彙』の出版経緯と聖教蔵板の意義2017

    • 著者名/発表者名
      万波寿子
    • 雑誌名

      国文学論叢

      巻: 62 ページ: 171 188

  • [学会発表] 近世西本願寺の勤行本の出版2017

    • 著者名/発表者名
      万波寿子
    • 学会等名
      文藝談話会
    • 発表場所
      龍谷大学、京都府京都市下京区
    • 年月日
      2017-02-26 – 2017-02-26
  • [学会発表] 「書物の身分」と近世仏書2017

    • 著者名/発表者名
      万波寿子
    • 学会等名
      書物・出版と社会変容
    • 発表場所
      一橋大学、東京都国立市
    • 年月日
      2017-02-07 – 2017-02-07
  • [図書] 『書物の文化史』第四巻「出版と流通」2016

    • 著者名/発表者名
      横田冬彦、藤實久美子、須山高明、梅田千尋、万波寿子、吉田麻子、杉本文子、稲岡勝、浅岡邦雄、松田泰代
    • 総ページ数
      352(141-171)
    • 出版者
      平凡社
  • [図書] 『妙好人研究集成』2016

    • 著者名/発表者名
      菊藤明道、林智康、佐藤平(顕明)、佐々木倫生、朝枝善照、大桑斉、島田一道、柏原祐泉、平田徳、黒崎浩行、土井順一、万波寿子、菊藤明道、児玉識、他24名。
    • 総ページ数
      748(179-201)
    • 出版者
      法蔵館

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公開日: 2018-01-16  

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