本研究は、書物研究のひとつとして、近世仏教の中でも最大規模であった西本願寺教団の出版物利用の実態を明らかにし、近世期に大量に流通した仏書(仏教関係書籍)の意義を探るものである。 平成30年度は、平成29年度に単著を出版したことを契機としいくつかの発展的知見を得た。とくに、本願寺史料研究所において多くの資料を発見・調査することができたのは大きな成果であった。また、前年度に引き続き、書誌調査や一橋大学社会学部教授若尾政希氏主催の「書物・出版と社会変容」研究会を中心に、研究会・学会に参加して研究者と交流し、その中で新しいプロジェクトへの参加も果たすことが出来た。 具体的には、本願寺史料研究所の資料調査結果を踏まえ、西本願寺の聖教出版のうち、とくに『教行信証』において、先行研究を修正するべき知見を得た。すなわち、文政年間に出版されたとされた曇龍校訂本は存在しない可能性が極めて高いこと、天保年間に刊行されたとされてきた小型本は、実は出版経緯および出版費用の収集に問題があり、弘化年刊まで出版されなかったことである。これは、単なる出版過程の解明に留まらず、近世の聖教受容の実態を示す上で示唆に富む。 こうした成果をまとめ「聖教の近世ー『教行信証』を例にー」と題して研究会にて発表した。また、『教行信証』の取り扱いが近世期にどう進展していったかを「近世版本としての『教行信証』」(『古典文藝論叢』第11号、文藝談話会)として発表した。 また、資料調査で得た西本願寺の稲荷祭参加の具体的姿について、「西本願寺と稲荷祭り」と題して本願寺史料研究所報(第57号、6月刊行予定)に寄稿した。 加えて、平成30年6月7日の産経新聞(西日本版)の「出版の源流(上)」と題する記事の中で、近世期京都の出版文化の発生や発展について解説し、研究成果をより広く一般社会に認知させることができた。
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