研究課題/領域番号 |
15J02394
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金森 耀平 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | イヌ / 貧血 / ヘプシジン / アクチビンB |
研究実績の概要 |
イヌの貧血は多くの場合原因不明である。炎症により鉄吸収抑制因子ヘプシジンの発現が亢進するので、イヌの貧血発症要因にも炎症性のヘプシジン発現亢進が関わっている可能性がある。多くの炎症性疾患ならびに炎症誘発モデルの動物において、発現が亢進するサイトカインであるアクチビンBは、ヘプシジン発現を誘導するので、アクチビンBが炎症時のヘプシジン発現亢進に関するキープレイヤーである可能性がある。 本研究の目的は、「イヌにおける貧血の発症要因の根本解明に向けて、アクチビンBによるヘプシジン発現亢進を軸に、イヌの原因不明の貧血と炎症の関係を分子レベルで明らかにすること」である。研究は、イヌ個体を用いた研究(課題1)と、培養細胞を用いた研究(課題2)から主に構成される。 課題1:イヌ貧血の発症と、炎症、及びアクチビンB―ヘプシジンの関係 イヌヘプシジン測定キットは市販されていないので、本研究ではヒトヘプシジン測定キットによりイヌ血漿中ヘプシジンの定量を行う。イヌヘプシジンの発現ベクターを作成し、これを大腸菌に発現させ、イヌヘプシジンのGST融合タンパク質を調製した。血漿サンプルは現在20検体入手した。 課題2:アクチビンBによるヘプシジン発現亢進の分子機構 ヘプシジンプロモーターのレポーター遺伝子をHepG2ヒト肝がん細胞に導入し、シグナル伝達経路や転写因子を標的としたsiRNAを用いて、アクチビンB情報伝達因子の同定を試みた。その結果、細胞表面受容体として機能するActRIIAとALK2のsiRNAを導入すると、アクチビンBによるヘプシジン転写の誘導が抑制された。ActRIIAとALK2は複合体を形成して機能することが知られており、両者の複合体がアクチビンBの受容体として機能すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度において、イヌ個体を用いた研究は、血中ヘプシジン濃度測定に向けた検体収集、ならびに、標準物質の調製を目標とした。現時点において、予定通りの検体収集は達成されている。また、大腸菌で発現させたヘプシジンを精製する試みも行った。ヘプシジン発現によって大腸菌の増殖は阻害されることから、当初、ヘプシジン精製は困難であったが、発現条件や精製条件を最適化することにより、標準物質の調製は完了した。 培養細胞レベルの研究では、アクチビンBにヘプシジン転写亢進機能があること、主としてBMPで活性化されるSmad(Smad1/5/8)がアクチビンBによって活性化されること、それだけでなく、アクチビンAによって活性化されるSmad(Smad2/3)をも活性化すること、これらの活性化に関与する受容体が明らかになるなど期待通りに研究が進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降は、イヌ個体を用いた研究では、調製した精製イヌヘプシジンを標準物質として、イヌ血漿中ヘプシジンの定量を行う。さらに、ヘマトクリット値、血漿中のIL-6とTNF-alpha(炎症の指標)、鉄、及びアクチビンBの濃度を測定し、カルテに記載されたデータ(品種、性別、体重、body condition score、病名、既往症など)と各測定値との関係から、イヌの貧血と関連する要因を明らかにする。 培養細胞を用いた研究では、同定されたアクチビンB情報伝達因子の作用の詳細な解析を行うとともに、同定された情報伝達因子について、発現ベクターやsiRNAをイヌ細胞(初代肝細胞、AZACHイヌ継代肝細胞、あるいは遺伝子導入効率が高いMDCK細胞)に導入し、アクチビンBによるヘプシジン遺伝子発現亢進に及ぼす影響を試験する。
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