炎症によるヘプシジン発現誘導機構の一つとして前年度に見出した、『炎症性サイトカインIL-1βによるヘプシジン発現誘導の分子機構』について、研究が完成し、IL-1βにより発現が亢進したC/EBPδがプロモーターに結合することで、ヘプシジン発現を誘導することを明らかにした。また、ラットのプロモーターはC/EBPδに対する反応性が低いために、IL-1βによるヘプシジン発現誘導が起きにくい可能性を示唆した。 1年目、2年目に、ヒトやげっ歯類の細胞を利用し、アクチビンBによるヘプシジン発現の誘導の分子機構について蓄積した知見を基に、イヌ細胞におけるヘプシジン発現調節機構について検討した。イヌヘプシジンプロモーターをイヌ腎臓由来細胞株MDCK細胞に遺伝子導入し、ヘプシジン転写の評価を行った。ヒトやげっ歯類の細胞においてアクチビンBは転写因子Smad1/5/8を活性化することで、ヘプシジン遺伝子発現を誘導する。MDCK細胞において、Smad1/5/8のリン酸化を誘導する恒常活性型キナーゼALK3(QD)を過剰発現させることで、プロモーター活性の亢進が認められたことから、イヌにおいてもアクチビンBによるSmad1/5/8の活性化を介したヘプシジン発現調節系が存在することが示唆された。 イヌ血漿中アクチビンBならびにヘプシジンを定量したが、今回のサンプルセットでは、血漿アクチビンB濃度とヘプシジン濃度には相関が認められなかった。個体間の鉄栄養状態やアクチビン以外のIL-1βなどサイトカインの相違が濃度の変動に大きく影響を与えた可能性が考えられ、品種、性別、鉄栄養状態の点において多様な背景のサンプルを限られたn数で分析した結果であるが、少なくとも、循環血中アクチビンBがヘプシジン発現を制御しないことを示唆することができた。
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