研究課題
本研究では,セルトリ細胞への分化誘導能を有する新規液性因子の探索を目的として,ニワトリ胚における性決定前後の発生段階でのみ雄左生殖腺において肥厚する皮質と呼ばれる体腔上皮層に着目した。報告者が行ってきたこれまでの研究から,精巣化決定遺伝子であるDMRT1がセルトリ細胞だけでなく雄左生殖腺の皮質を構成する上皮細胞においても発現することが明らかになっていた。本研究では,上皮細胞におけるmigrationマーカーであるVimentinが左精巣皮質の上皮細胞において強く発現しており,Vimentin陽性の細胞質を髄質へと伸ばしている細胞も観察された。超微形態学的解析においても皮質から精巣索へと細胞質を伸張させている細胞が観察され,その細く伸びた細胞質中には細胞骨格線維が豊富で,細胞質の先端とセルトリ細胞間の細胞膜上にはデスモゾーム様構造がみられた。生殖腺の皮質の細胞を蛍光色素で標識し器官培養を行ったところ,培養後の左精巣において髄質内にDMRT1を発現する蛍光色素標識細胞が観察された。一方で,DMRT1を発現せず体腔へと脱落しているようにみえる細胞も観察された。以上のことから,左精巣皮質においてDMRT1を発現する上皮細胞の一部はセルトリ細胞へと分化する一方で,発現しない上皮細胞は体腔へと脱落することが示唆された。従来,ニワトリのセルトリ細胞は中腎間充織に存在する細胞に由来するとされていたが,本研究により体腔上皮由来の細胞もセルトリ細胞へ分化できることが明らかになった。また,皮質の上皮細胞が髄質へ移行するか,体腔へ脱落するかを決定する機構にDMRT1の関与が考えられ,左精巣皮質内でDMRT1を発現する上皮細胞の局在に部位差がみられたことから,DMRT1の発現やセルトリ細胞への分化を誘導する機構として,左精巣皮質に対して局所的に働きかける何らかのシグナリングの存在が想定された。
2: おおむね順調に進展している
左精巣の皮質から髄質,とくに精巣索内へ細胞が移行しセルトリ細胞へ分化することを明らかにすることができた。現在は皮質の上皮細胞からセルトリ細胞への分化を誘導する候補因子の阻害実験を進めているところである。また,卵巣化を誘導する因子として着目したAhRの局在を調べるために,各種ニワトリAhRs(chAhR1α, chAhR1β, chAhR2)に対する抗体の供与を受け,免疫組織化学の条件を検討しているところである。また,並行してAhRのantagonistを用いた阻害実験も行っている。
器官培養では皮質から精巣索内へ移行していた細胞は稀にしかみられなかったため,皮質の上皮細胞からセルトリ細胞への分化を誘導する因子の探索として器官培養は不適当と判断した。そこで,現在は皮質を含む生殖腺から酵素処理により分散させた細胞を培養することで皮質を構成していた上皮細胞がセルトリ細胞マーカーを発現するようになるかを検索している。セルトリ細胞マーカーを発現するようになるのであれば,何らかの液性因子の受容体に対する阻害剤を添加した場合にその発現が抑制されるか否か,ならびにその液性因子および受容体の発現様式を検索する。chAhRsを発現する細胞,時期の同定を免疫組織化学やin situ hybridizationにより検索し,発生段階や投与方法を変えながら阻害実験の検討を進めていく予定である。また,agonist投与によるAhRの活性化実験も行う予定である。
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J Vet Med Sci
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