研究課題/領域番号 |
15J02421
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平田 萌々子 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 摩擦の不安定性 / 不安定すべり / エネルギー論 / Roweの法則 / 散逸エネルギー / 断層ガウジ / 摩擦実験 |
研究実績の概要 |
本年度は、地震に伴う動的なすべり(不安定すべり)の発生を支配する摩擦の不安定性に関して、エネルギー論の視点から理論的考察を行った。従来は、解析力学の観点に基づく、アナログモデルにおける摩擦不安定性の評価基準が用いられてきた。そこに、粒状体の変形過程を熱力学の観点より経験則として記述したRoweの法則を援用し、現象の理論的体系化を行うことで、摩擦不安定性に関するエネルギー論的基準を新たに得ることができた。 粒状体の変形過程をエネルギー論的に検討することで、断層ガウジ層内に発達する剪断構造の発達過程を定量評価した。先行研究によって、剪断の進行に伴い主要な剪断構造の一つであるR1-シアーの低角化が定性的に報告されている。本研究の定量評価の結果、同様に剪断構造の低角化が認められ、先行研究を補完する整合的な結果となった。剪断構造が最も低角(3°:岩石-ガウジ境界とほぼ平行)に発達した試料上部から不安定すべりが開始・伝播したと考えられる。これらの成果について学会等(3件)で発表した。 さらに、これらの研究成果をより発展させるためにフラクタル理論を援用した。その結果、不安定すべり発生までの臨界すべり変位と剪断歪の関係を定式化することができた。また、エネルギー論的には、すべりの不安定化にはエネルギーの散逸過程が大きく影響し、岩石の変形様式はこうしたエネルギーの散逸過程に依存する可能性を見出した。こうした結果に、従来用いられた解析力学に基づく摩擦不安定性の評価基準を関連付けることで、より詳細なエネルギー論的な摩擦不安定性の評価基準の構築を行った。これらの成果を、国際誌2本に投稿予定であり、現在投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究奨励費を用いてパソコンや書籍等を購入した。これにより、既存の実験データの解析や摩擦不安定性に関する情報収集が可能となり、理論的考察に留めるだけでなく、実験データとの比較を行うことができた。その結果、理論的考察と実験データが整合的であり、補完し合う関係性であることが明らかになった。エネルギー論に基づく摩擦の不安定性評価はこれまであまり検討されていない。摩擦の不安定性には断層ガウジの粉砕(変形)過程やガウジ層内の剪断構造発達、臨界すべり変位などが大きく関連すると考えられてきた。しかし従来の解析力学では、これらを記述することが不可能である。そこで、エネルギー論に基づく視点が必要となる。本年度は、理論の体系化が主な成果であるが、これまで記述することができなかったミクロの変形を理解・評価する上で非常に重要であり着実に研究を進めることができた。以上より、3カ年計画の初年度に相当する本年度は、おおよそ順調に進展しており次年度以降さらなる進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
フラクタル理論を援用することで得られた臨界すべり変位と剪断歪の関係性を基に、散逸エネルギーが断層ガウジの変形過程に及ぼす影響をより詳細に検討する。具体的には、(1)断層ガウジの粉砕過程と応力降下量の関係の理解、(2)断層ガウジの粉砕過程と剪断構造発達の定量的評価、(3)散逸エネルギーの封圧依存性の理解を目指す。これらの目的を達成するために、当初予定していたアナログ実験に着手するとともに理論的考察を行い、実験的考察を理論的考察の両観点より理解を深める。これらの結果を、日本地球惑星科学連合2016年大会やThe Second International Conference on Science, Engineering & Environment 2016, Crustal Dynamics 2016 -Unified Understanding of Geodynamic Processes at Different Time and Length Scales- 等の学会で発表すると共に、現在投稿準備中の2本を国際誌へ投稿する。
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