研究課題
年老いた星 (晩期型星) が放出する気相中で鉱物微粒子 (ダスト) が生成する.本研究では,ダストを模擬したナノ粒子が,気相から核生成を経て生成するメカニズムを明らかにすることを目標とする.平成27年度においては,気相からの核生成過程の赤外スペクトル “その場” 測定装置の作製と,酸化物系ダストを模擬した核生成実験を成功させることを主たる目的とした.核生成過程の赤外スペクトル “その場” 測定装置が予定通り完成した.雰囲気ガスを調整した真空チャンバー中で,試料を高温まで加熱,蒸発させることでナノ粒子が生成する.本研究では赤外透過性の高いKRS5を用いたビューポートを通して,核生成過程の赤外スペクトルを測定する.生成物を回転板上に採取することで,赤外スペクトルと生成物の1対1対応を可能とした.酸化チタンの核生成過程における赤外スペクトルその場測定実験を行い,気相から核生成した直後のナノ粒子は結晶構造をもたず,冷却過程で結晶化が進行することが明らかになった.酸素に富む環境で星周ダストの大半を占めるMgケイ酸塩についても同様の実験を行い,非結晶として核生成し,冷却過程で速やかに結晶化が起こることが明らかになった.結晶化が著しく速いことから,この非結晶相は液相であると考えられる.これまでは気相から固相が直接生成すると考えられており,複数の酸化物系において,エネルギー的に準安定な非結晶相を経る,多段階の核生成プロセスが明らかになった.また,JAXAとの共同研究により航空機,観測ロケットを用いた,微小重力下でのアルミナ核生成過程における赤外スペクトルその場測定実験,及び二波長干渉計によるその場測定実験を行った.次年度では解析を進めるとともに,核生成過程を特徴づけるパラメータと結晶相の関係について検討を進める.
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度の計画は,1. 実験生成物の時間分割採取機構を含めた実験装置の作製,2. Feを含むケイ酸塩,3. アルミナ,酸化チタンについてナノ粒子の赤外スペクトル “その場” 測定実験を行うことであった.1について,フーリエ変換型分光光度計の内部光学系を用いた実験系では二波長干渉計と組み合わせた議論を展開するのに不十分であることが判明した.そこで,外部光学系を用いた新たな実験装置を作製した.当初の設計通り,回転導入を取り入れた試料採取による時間分割採取機構を取り入れた.また,新装置導入に伴い,赤外スペクトルの高さ方向での変化が測定できる機構を取り入れた.外部光学系に量子型の赤外線検出器を用いたことで時間分解能,空間分解能を当初の想定より向上することができたため,当初の計画以上の性能,機能を達成した.2について,酸素雰囲気下でFeが固溶したケイ酸塩ナノ粒子を生成し,赤外スペクトルのその場測定実験を行った.Feが固溶することでアモルファス,結晶質ともに10 μmバンドのピーク波長位置が長波長側へシフトする.本研究で測定された,核生成直後の赤外スペクトルと酷似した特徴を示す天体の存在が明らかになった.一方,不活性雰囲気下では,Feはケイ酸塩中で固溶せず,金属鉄粒子がアモルファスケイ酸塩中に分散した粒子が生成することを明らかにした.次年度以降,Feがケイ酸塩中で固溶する条件を調べることで,計画以上の発展が期待できる.3について,チタン酸化物の赤外スペクトルその場測定実験を行い,気相から核生成した直後のナノ粒子は結晶構造をもたず,冷却過程で結晶化が進行することが明らかになった.結果は査読付き国際誌に投稿中である.また,アルミナについては平成28年度以降での実施を予定していた微小重力実験を行うことができた.以上より,現在の達成度を当初の計画以上に進展していると判断した.
複数の酸化物系ダスト模擬粒子について,核生成過程において準安定な非結晶相を経たのちに結晶化がおこる多段階のメカニズムが明らかになった.これまでは気相から結晶が直接生成すると考えられていたため,この現象の普遍性を検討する必要がある.これまでの酸化系ダスト模擬粒子に加え,隕石中でプレソーラー粒子の報告の多いSiCについて気相からの核生成過程の赤外スペクトル “その場” 測定実験を行い,炭化物系でも同様の現象が見られるのか対象を広げる.不活性雰囲気下では,金属鉄とケイ酸塩が分離した生成物が凝縮することが明らかになった.彗星の塵などに観察されるGEMSは,非晶質ケイ酸塩中に金属鉄や硫化鉄を包有しており,本実験生成物と似た特徴を示す.GEMSは星間ダストの生き残りであることが示唆されているが,金属鉄が凝縮過程において生成したものなのか,結晶の非結晶化によって生成した物質なのか明らかになっていない.次年度以降,核生成過程を赤外スペクトルその場測定することで,本実験生成物の金属鉄がどのようなメカニズムで生成しているか調べる.平成28年度以降での実施を予定していた微小重力実験をすでに完了した.アルミナ核生成過程の赤外スペクトルその場測定実験の結果,微小重力下では地上実験とは異なる結晶相が現れている可能性が示された.酸素に富む晩期型星のうち,質量放出率の小さい時期に観測される13 μm帯はバンド幅が0.5-1.0 μmと鋭く,地上実験では再現されていない.本研究では同程度のバンド幅をもつ吸収帯が13 μm付近に現れた.次年度では二波長干渉計の解析を進めるとともに,核生成過程を特徴づけるパラメータと生成する結晶相の関係について検討を進める.
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The Astrophysical Journal
巻: 803 ページ: 88
Balloon Symposium: 2015
巻: 2015-11 ページ: 1-4