MoO3の核生成実験について報告する.核生成直後の成長過程における赤外分光スペクトル形状の変化を調べ,結晶学的に等価な面でのみ粒子が付着し,融合することを発見した.核生成した粒子に,気相中の分子が1つずつ取り込まれる気相成長を経て,針状の粒子が生成する.針状の粒子は対流中で,結晶の方位が揃った凝集,融合を経て,立方体の粒子へ成長することを発見した.気相からの核生成と成長が,従来の古典的な熱力学に基づいた単純なプロセスではなく,多様な生成経路を経てダストの成長が起こることを示した. また,ケイ酸塩 (MgxFeySiOz) の核生成実験について報告する.ケイ酸塩鉱物は,最も豊富な難揮発性鉱物であり,太陽系の材料にもなる.本研究では,酸素のストイキオメトリーに着目し,酸素の不足した環境でのMgケイ酸塩の核生成,成長に10 umバンドのその場測定から迫った.酸素が十分に存在する環境では,100 nm以下程度の球形のフォルステライトが生成した.一方,酸素の不足した環境で生成したケイ酸塩は,2種類の自己組織化構造を示した.どちらも数 nmサイズの結晶から成り,透過型電子顕微鏡によって観察された結晶構造はエンスタタイトと合致した.酸素が十分に存在する環境で生成したケイ酸塩は9.7,10.8 umに現れる2つのピークが顕著であったのに対し,酸素の不足した環境で生成したケイ酸塩は,10.0,11.4 umにピークをもつバンド幅の広い,赤外吸収スペクトルを示した.後者の特徴は,彗星に観測される10 umバンドの特徴と類似している.これまではMg/Fe比が赤外スペクトルに与える影響が大きいと考えられていた.本研究は,生成雰囲気中の酸素がダストの形態と密接な関係があり,それによって赤外スペクトルが大きく変化することを新たに示した.
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