昨年度は研究計画に従い、銀河系形成史に関する新たな知見を得るために、独自に作成した準解析的銀河円盤化学動力学進化モデルを用いて、先行研究のモデル計算で再現が出来ていない銀河系恒星円盤における幾つかの観測的性質について議論した。研究対象としたのは最新の銀河系内大規模サーベイであるAPOGEEによって最近明らかにされた銀河系円盤星の金属量分布の円盤面動径(R)方向に対する依存性である。円盤星の金属量分布は恒星円盤中での星形成と化学進化の歴史を如実に反映するため、そのR方向への依存性は銀河系円盤全体の進化を知る上で重要な手掛かりになると考えられる。そこで上で用いたのと同じ銀河円盤進化モデルを用いて最新の円盤星の金属量分布観測を再現出来る銀河進化過程の条件を調べた。
モデル計算の結果、星形成の材料となるガスの流入・流出や円盤星の円盤構造内での力学進化といった銀河円盤の形成・進化において極めて重要と考えられる諸過程についていくつかの新しい示唆が与えられた。中でも銀河円盤の内縁部と外縁部における星形成史の違いを明示できたことは大きな成果である。モデル計算によると円盤内縁部は低金属量のガスから短いタイムスケールで急速に作られるのに対し、円盤外縁部は比較的高金属量のガスからゆっくりと作られ、これが観測される円盤星の金属量分布を再現する上での鍵となることがわかった。円盤形成過程におけるこの性質は銀河内でのガスの供給・循環について重要な制限になると期待される。この研究成果は筆者自身の博士論文の中でまとめられており、さらに学術誌The Astrophysical Journalにも投稿、現在査読審査中である。
|