研究課題
本研究では広視野多天体補償光学に必要なトモグラフィック推定手法に関する研究を行っており、特に私が開発した新しいトモグラフィック推定手法である「複タイムステップトモグラフィック推定」の開発と実証を進めている。平成27年度は開発した手法の数値シミュレーションおよび多天体補償光学の試験装置であるRAVENを用いた光学実験での評価を行った。本手法はこれまでにない新しい手法であり、シミュレーションおよび光学実験で実際に従来のトモグラフィック推定手法よりも多天体補償光学の補償性能を向上させることができることが実証された。これらの結果はJOSAAに査読論文として発表し、補償光学の国際研究会でも口頭発表による報告を行った。さらに、すばる望遠鏡でのRAVENの実証観測に向けて本アルゴリズムの実装を行い、2015年6月には実際の観測で本手法の試験、および必要なデータの取得を行った。その結果、いくつかの時間帯では複タイムステップトモグラフィック推定が有効であることが示され、博士論文としてまとめた。また、数値シミュレーションコードにグラフィックボードを用いた並列計算(GPGPU)を組み込む、トモグラフィック推定計算の高速化の試験も進めた。GPGPUにより大幅な計算速度の向上が可達成されたが、現状では目標とする計算速度を達成することはできかった。しかし、さらなる計算速度向上に向けた計算手法の改良を行い、引き続き評価を行う予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度は私の開発した複タイムステップトモグラフィー法について、計算機上でのシミュレーションおよびRAVENを用いた光学実験の結果を取りまとめて新しいトモグラフィック推定手法としてJOSAAに査読論文として発表した。さらに補償光学の国際研究会でAO4ELTにて、実験結果を口頭発表で報告した。また、すばる望遠鏡において多天体補償光学の実証観測に向けてアルゴリズムの実装と6月には実際の試験観測を無事に遂行し、試験観測において得られたデータをもとに博士論文をまとめることができた。
平成27年度の結果から複タイムステップトモグラフィック推定が有効であることが示された一方で、装置自体の振動や望遠鏡ドーム内で発生する位相ゆらぎ(ドームシーイング)が本手法に大きく影響を与えることが示唆された。また、試験観測でのRAVENの多天体補償光学の性能が、数値シミュレーションで期待される値よりも低いという問題が発生し、複タイムステップトモグラフィック推定のオンスカイでの評価を正確に行う上で、この原因を解明・改善していくことが必要不可欠である。そこで、平成28年度は今まずRAVENの試験試験のデータ解析を継続して行い、RAVENの性能評価と性能を制限している原因の解明、改善を進めていく。装置の振動やドームシーイングの複タイムステップトモグラフィック推定手法にへの影響を定量的に評価し、さらなる手法の改善につなげる。この試験観測から得られた結果を反映しつつ、さらなる数値シミュレーションや光学実験を進め、将来の超大型望遠鏡での多天体補償光学の実現に向けた性能評価、開発を進めていき、最終的には達成される科学的成果とともにまとめる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Journal of the Optical Society of America A
巻: 33 ページ: 726-740
10.1364/JOSAA.33.000726