本研究では、広視野多天体補償光学に必要なトモグラフィック推定手法に関する研究を行っており、特に私が開発した新しいトモグラフィック推定手法である「複タイムステップトモグラフィック推定」の開発と実証を進めている。多天体補償光学は地球大気のゆらぎによって引き起こされる光の乱れの影響を補正する補償光学を、広い視野内の複数の天体方向に同時に適用する次世代の補償光学システムである。この多天体補償光学を実現するためには、複数の明るいガイド星から情報から、大気ゆらぎによる位相乱れを高さごとに推定するトモグラフィック推定が重要な技術となる。私が開発した「複タイムステップトモグラフィック推定」は、大気ゆらぎが風によって時間ともに移動しているとみなせることを利用して、複数のタイムステップでの測定値を同時に用いることで情報を増やし、トモグラフィック推定による推定精度を向上させる手法である。 まず、昨年度は手法の開発と数値シミュレーションによる評価を行い、本手法によって補正性能が大幅に向上することを示した。また、2014年・2015年にハワイにあるすばる望遠鏡で行われた多天体補償光学の試験装置である「RAVEN」オンスカイ試験観測で、本手法の性能評価を行った。2016年度は4月よリフランス・LAMに長期滞在し、Carlos Correia氏と共同研究を進めた。RAVEN試験観測で得られたデータの解析を進め、 マウナケア山頂での大気揺らぎプロファイルの推定を行い、多天体補償光学の補償性能について詳細な評価を行 つた。特に大気ゆらぎプロファイルの推定結果からはマウナケア山頂では地表付近の揺らぎ成分の寄与が大きく、 広視野の補償光学に向いた観測値であることが確認された。また、将来超大型望遠鏡での多天体補償光学に必要となる制御計算の高速化に向けたアルゴリズムの評価も進めた。
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