今年度は、絶対零度近傍のBCS-BECクロスオーバー領域におけるs波超流動Fermi原子気体の熱力学的性質に対する強結合補正の影響を調べた。絶対零度近傍では、熱揺らぎが抑制され、強い粒子間引力相互作用による量子揺らぎの影響が残る。本研究では、強い超流動揺らぎ及び超流動秩序が競合するユニタリー領域においてこれらの影響が観測可能な熱力学量にどのような形で現れるかに着目した。 東京大学の実験グループとの共同研究を通じ、弱結合BCS領域からユニタリー極限にかけて高精度に測定された化学ポテンシャル、内部エネルギー、圧力、圧縮率、音速、Tanコンタクトが、本研究において開発した強結合理論である超流動相の拡張型T行列理論によってほぼ完璧に説明されることが明らかとなった。本研究では、超流動揺らぎの効果を理論に取り込み化学ポテンシャルを高い精度で計算、それが実験とよく一致することを確認した後、熱力学関係式のみを用いて化学ポテンシャルから圧力、内部エネルギー、圧縮率、音速、Tanコンタクトの計算を行った。こうして得られた熱力学量は、先行研究における測定結果とも非常によく一致しており、これにより本研究成果の妥当性を確認することができたとともに、絶対零度近傍の熱力学量に対する量子揺らぎの影響は超流動揺らぎが支配的であることがわかった。また、超流動秩序パラメータの計算結果もフィッティングパラメータを用いずに実験結果とよく一致しており、本研究のアプローチによって初めて超流動秩序と超流動揺らぎ両方の効果を同時にかつ定量的に扱うことが可能となった。
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