本年度は、これまで行ってきたタンザニアにおける三度の現地調査の結果を分析し、現在タンザニアで見られているスワヒリ語振興政策の背景に英語化現象と多言語主義の影響があると位置づけて分析を行った。また、多言語主義の風潮の中で発展してきた言語権の議論が、タンザニアにおける言語に関する人権としてなにを語り得るのか、その射程を明らかにするための議論を行った。その際、特に教授用言語に関する言語政策という観点に着目し、学校教育の現場からの考察も行った。 また、タンザニアの事例をアフリカの言語問題の新たな局面の一部として位置づけ、英語化現象が顕著なアフリカ諸国における多言語主義が「価値」として機能しない要因を改めて考察し問題提起を行った。結果として、英語化という「現象」と多言語主義という「理想」の乖離がアフリカ諸国に与えている影響に着目し、多言語社会タンザニアが抱える現在の言語問題を明らかにすることに成功した。特に、先行研究で扱われてこなかった地域のデータを提示できたことは、当該分野への貢献となった。 これらの分析の結果は、大阪大学に2017年12月に提出された博士論文にまとめた。また、東アフリカ諸国の言語政策についての分析で博士論文には載せられなかった箇所は、学術ジャーナル『言語政策』に投稿し、掲載された。さらに、教育的観点から学校におけるフィールドワークのデータをまとめ分析した論文を執筆し、広島大学教育開発国際協力センターの紀要『国際教育協力論集』に投稿済みである。
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