TERによる極長鎖脂肪酸合成経路制御機構の解析のため,出芽酵母を用いた系を構築した。これまでにTERの極長鎖脂肪酸合成酵素との結合に必要なアミノ酸残基は不明であったため,アミノ酸配列が既知のTERホモログで保存されたアミノ酸残基に着目し,その残基をアラニンに置換した変異体を作製した。また,シロイヌナズナTERホモログではTERの141番目のアルギニン(R141)に相当する残基のアラニンに置換体は出芽酵母TERホモログTSC13遺伝子欠損を相補しないことが知られている。そのため,TERのR141に対してアラニン置換体と嵩高いチロシンに置換した変異体(R141Y)を作製した。作製したTER変異体を野生型HACDと共にTSC13遺伝子欠損株に形質転換した。解析の結果,R141Y変異体はHACDの安定性を著しく低下させることを見出し,TERのHACDとの相互作用に必要なアミノ酸残基が明らかとなった。本結果からTERによる極長鎖脂肪酸合成制御機構が新たに明らかとなった。前年度はTERLに飽和脂肪酸伸長活性がないことを示したので,本年度は不飽和脂肪酸伸長活性測定系を構築した。酵母伸長サイクルは不飽和脂肪酸を伸長しないため,前年度に作製したTERL導入TSC13欠損株に不飽和脂肪酸縮合活性を持つヒトELOVLを導入した。測定系の構築は完了したが,辞退となったため,詳細な解析に至らなかった。また,生体におけるTERLの役割を明らかにするため,CRISPR/Cas9システムを用いたTerl遺伝子ノックアウトマウス作成を行った。作製したキメラマウスと野生型マウスとの交配によってTerlヘテロノックアウトマウスを作製した。作製したヘテロマウスは野生型対立遺伝子によって野生型と同様の表現型を示した。TERLホモノックアウトマウスの作製,解析によって生体での役割が明らかになることが期待される。
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