申請者は、太陽面上の爆発現象(太陽フレア)のエネルギー解放過程から、宇宙プラズマ擾乱(宇宙嵐)の形成に至るまでを記述する理論的基礎の確立を目指して研究を進めた。当該年度においては、主に以下の三点の成果を上げた。(1)3次元電磁流体シミュレーションを用いた太陽フレアの再現と、エネルギー解放に伴う乱流構造の解析、(2)太陽フレアに伴う太陽コロナ中の衝撃波とプロミネンス(重いプラズマ)の相互作用の力学過程の解明、(3)巨大フレアとそれに伴うコロナ質量放出の形成・伝搬に関する新しい描像の提出、の三点である。 まず、(1)では、太陽フレアにおけるプラズマ噴出運動と、そのエネルギー解放を担う「磁力線つなぎかえ」の力学過程を世界最高分解能の三次元電磁流体数値シミュレーションを用いて再現した。その結果、磁力線つなぎかえの現場で自発的に形成される様々な乱流構造や流体不安定性が、エネルギー解放の間欠性や準周期的振る舞いに重要な役割を担うことを、世界で初めて指摘した。 次に、(2)では、太陽フレアに伴うコロナ中の衝撃波と、太陽プロミネンスと呼ばれる重いプラズマの相互作用の素過程を再現する三次元電磁流体シミュレーションを行い解析を行った一方で、その力学過程を表現する解析モデルを作り、数値シミュレーションの結果をよく再現することを確かめた。そこで得た結果を踏まえて観測データを再解析することによって、それまで直接観測が非常に困難であったコロナ中の衝撃波物理量について、定量的な議論をする土台を得た。 最後の(3)では、太陽フレアの規模と、それに伴うプラズマ噴出(コロナ質量放出)の質量・速度の関係を記述するスケーリング則を導き、統計観測によって裏付けた。また、コロナ質量放出が惑星間空間を伝播する過程を記述する解析モデルを作成した。以上により、太陽フレアと宇宙嵐をつなぐ理論的基礎を得た。
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