当初の仮説とは異なる結果を得たため当初計画通りには進まなかったが、別の様々なアプローチでDJ-1とミトコンドリアの関連の検討を進めたところ、ミトコンドリアcomplexIの阻害剤で神経毒として知られるMPP+と構造が類似している除草剤パラコートを神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に処理すると、濃度・処理時間依存的にDJ-1がSDSでも解離しないSDS-resistant dimerを形成することを見出した。DJ-1は通常SDSで解離するダイマーを形成し、抗酸化ストレス能などを発揮すると考えられているが、SDS-resistant dimerを形成すると抗酸化ストレス能が破綻することが明らかとなった。また、DJ-1のSDS-resistant dimerはパラコートによって作られるスーパーオキシドが直接DJ-1に作用することで形成されることも明らかとなり、その作用部位はDJ-1の106位システインであることが示唆された。パーキンソン病患者で見つかっているDJ-1点変異体の中には、パラコート未処理の状態でもSDS-resistant dimerを形成している変異体が複数存在した。実際に、パーキンソン病患者の脳内でDJ-1がSDS-resistant dimerを形成しているという報告もあるため、大量のスーパーオキシド産生によるDJ-1 dimerのSDS-resistant dimerへの変換、それによるDJ-1の抗酸化ストレス能の破綻がパーキンソン病発症の原因の1つとなる可能性が考えられる。動物レベルの研究まで発展できれば、パーキンソン病治療への応用も期待できる。本研究は、国際学術雑誌であるFree radical researchに投稿し受理された。当初とは方向性が変わってしまったが、パーキンソン病発症の分子機構解明という大きな目標に向けた成果は得られたと考えている。
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