研究実績の概要 |
世界の農耕可能地の約30%の酸性土壌では作物の生育が阻害されるが、その主要な因子はアルミニウム(Al)イオンと考えられている。Alは土壌の酸性化に伴ってイオンとして溶出し根の伸長阻害や細胞死を引き起こす。植物のプログラム細胞死の1つに液胞に局在するプロセッシング酵素(VPE)が関わる細胞死の報告がある。そこで本研究では、Alによる細胞死の誘発におけるVPEの関わりについて解析した。次に、根の伸長成長には根端の分裂・伸長領域へのスクロースの供給が必要であることから、根端で発現しているスクロース輸送体遺伝子NtSUT1に着目し、Alによる伸長阻害ならびに細胞死誘発への関わりについて解析した。 1アルミニウムが誘発する細胞死におけるVPE遺伝子の関わり 本年度は、細胞死誘発の原因となるVPE遺伝子を特定するために、タバコBY-2細胞を野生系統(WT)として、タバコで発現するVPE遺伝子発現抑制系統を作成した。Alに対する応答反応を比較解析した所、VPE酵素活性の上昇と細胞死の誘導は、ともに主としてVPE1遺伝子によることが明らかになった。昨年度と本年度の結果をまとめ、タバコにおける細胞死誘発経路として[①Alの結合→②VPE1遺伝子の発現上昇→③VPE酵素活性の上昇→④細胞死]が考えられた。 2アルミニウムによる根伸長阻害におけるNtSUT1遺伝子の関わり 本年度はNtSUT1遺伝子の高発現系統(OX)ならびに発現抑制系統(RNAi)と野生型(WT)の3系統(WT,OX,RNAi)を用い、根端の遊離糖含量の比較解析と根端におけるにNtSUT1遺伝子の機能を明らかにした。昨年度と本年度の結果から、タバコ培養細胞の系と同様に、タバコ植物体においても、NtSUT1遺伝子の高発現により、Al障害が抑制され、Al耐性を獲得することが分かった。
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