研究課題/領域番号 |
15J02602
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
新井 隆 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 灰(ashes) / 戦争の痕跡(war remains) / 想起(remembering) / 赦し(forgiveness) |
研究実績の概要 |
本研究では、マリアナ諸島におけるアジア・太平洋戦争の記憶をめぐる様々な動きを現地の人々(チャモロやカロリニアン)の視点を軸にしながら、日米を含めた三者関係の分析・考察を目指してきた。 具体的には、グアムにおけるLiberation Paradeや戦時中に同島で命を落とした人々への追悼・慰霊の諸行事に足を運ぶとともに、北マリアナ諸島サイパンでは、島内に散在する各種戦跡の残存状況を直接確認した。これらのフィールドワークから、各種記念行事の主催者や参加者に注目することで、戦争の記憶を想起するという行為の中で、マリアナ諸島の歴史的背景や日米の植民地的まなざしが浮き彫りになってくることがわかった。 また、公立図書館での新聞資料収集を行うことで、マリアナ諸島における記念・追悼・慰霊の諸行事ならびにアジア・太平洋戦争関連の記念碑建立の歴史的変遷を追うことができた。戦争の記憶に関わる諸活動の歴史的変遷を押さえることで、マリアナ諸島におけるアジア・太平洋戦争の位置づけが少しずつ見えてきた。 加えて、これらのフィールドワーク・資料収集の成果を基にして、2015年11月21日には近現代史研究会で「グアムにおける追悼・慰霊の空間―「想起の場」としての戦跡を考える」(於:名古屋大学東山キャンパス)と題した口頭発表を行った。さらに、2016年1月23日にも日本オセアニア学会関西地区例会にて、「グアムにおける戦争の記憶の「もつれ」―追悼・慰霊と記念・顕彰のはざまで」(於:京都大学吉田南キャンパス)という内容で口頭発表を行った。いずれの発表もグアムにおける戦争の記憶の想起のされ方における「複雑さ」に着目したものであり、グアムと北マリアナ諸島が辿ってきた歴史的背景も視野に入れながら、島内各地に散在している戦跡やそこで行われる追悼・慰霊の諸行事を取り上げている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究活動においては、グアムと北マリアナ諸島サイパンでのフィールドワーク・資料収集を計3回、国内の学会・研究会における研究発表を計2回行った。前者の活動の中では、当初の狙い通り、マリアナ諸島でのアジア・太平洋戦争に関する記念行事や追悼・慰霊の式典等に参加することで、同諸島における戦争の記憶の表象の一端を明らかにした。さらに、各種記念行事に参加することで、一部の主催者と人的つながりを形成することができ、今後研究活動を円滑に進める上でも、重要な成果となった。また、これまでの研究活動から継続して、マリアナ諸島でのフィールドワークを実施できたことは、グアムのLiberation Paradeなど特定の記念行事を定点的に観察・分析することも可能にした。こうした継続的な視点から、戦争の記憶を想起する活動を見ていくことは、本研究の目的を達成するためにも重要な作業となってくる。以上のことを踏まえれば、同年度の研究活動は、おおむね順調な進捗状況であるということができる。 ただ一方で、一部先述したグアムでのフィールドワーク及び資料収集において、島内の移動費が当初想定していたよりも多くかかってしまった。そのため、もう一つの調査先として挙げていたメリーランド州カレッジ・パークにあるNational Archives(Archives Ⅱ)での資料収集(ミクロネシアにおける戦後補償関連資料)を別の機会に移さざるを得なかった。そうした事情もあり、平成27年度内の米本土における調査をいったん取り止め、代わりに北マリアナ諸島サイパンでの戦跡調査並びに公立図書館での新聞資料収集に切り替えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後(平成28年度)における研究の推進方策としては、当初計画していたマリアナ諸島での調査活動に加えて、平成27年度中に実施できなかったメリーランド州カレッジ・パークにあるNational Archives(Archives Ⅱ)での資料収集(ミクロネシアにおける戦後補償関連資料)を行うものとする。さらに引き続き、定点的な視角からマリアナ諸島における戦争の記憶の表象について、分析・考察を進めるとともに、グアム‐北マリアナ諸島間での比較を重点的に行う。両者は同じ諸島に属しているものの、それぞれの歴史的背景を辿ってみると、日米を含む大国から植民地支配や戦争により政治的・精神的に「分断」されてきたことがわかる。この分析視角は、本研究の軸を成すものであり、マリアナ諸島における戦争の記憶を掘り起こす際には、避けて通れないものであると言える。すなわち、比較史の視点を用いることで、マリアナ諸島における戦争の記憶の表象をより精緻に分析・考察することを目指す。 また、National Archives(Archives Ⅱ)での資料調査からミクロネシア地域の戦後補償の流れと併せて、戦争の記憶をめぐるアメリカの同地域に対するスタンスについても分析・考察していくものとする。ミクロネシア地域に対する戦後補償政策は、アメリカだけに限らず日本も大いに関わっているため、マリアナ諸島に対する日米の関与の歴史を投影するトピックの一つであると言える。 加えて、これらの調査活動で得られた知見を基にして、国内外の学会・研究会で研究成果の発表を行うとともに、学術雑誌などへも論考を積極的に投稿していく。
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