研究課題/領域番号 |
15J02604
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西口 純矢 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 遅延微分方程式 / 平衡点の安定性 / 線型安定性 / 特性方程式 |
研究実績の概要 |
1つの定数遅れをもつ遅延微分方程式の平衡解の指数安定性は,線型化方程式の特性方程式の根配置問題に帰着される.このとき,行列の同時上三角化可能の条件のもとで,この特性方程式は1つの定数遅れをもつ複素数値の線型微分方程式の特性方程式に帰着される.帰着された根全体の集合は,Lambert の W 関数というある複素関数の多価逆関数の値(したがって,複素平面の部分集合)となる. 安定性は,根の実部の正負によって決まるため,1価正則な各分枝の「グラフのような表示」,つまり複素変数の実部を保存し,値の虚部は変数の虚部でパラメータ付けられた変数の実部の関数であるような表示を求められればよい.一般の複素関数についてこのような表示が可能であるかはわからない.申請者は,Lambert の W 関数の各分枝の情報を含む,1価関数である Wright のオメガ関数について,適当な座標表示のもとで「グラフのような表示」が可能であることを示し,これを用いて Lambert の W 関数の各分枝の適当な座標系のもとでのその表示を求めた. これにより,上記の複素数値の線型微分方程式の特性方程式である複素係数の超越方程式の根全体の集合が,複素平面の左半平面に含まれるための必要十分条件を求めることができる.得られる不等式を遅れパラメータについて解くことで,遅れパラメータに関する条件を得ることができる.得られた条件は,複素係数の場合には遅れパラメータを増やすことで安定性の変化が何回も起きうることを示しており,この点で実係数の場合と異なる. また,複素係数の超越方程式に関する結果を,同一の位相振動子が遅れを持って結合したネットワークにおいて,各振動子に作用する振動子の個数が一定という条件のもとでも,同期状態の安定性はネットワーク・トポロジーに依存するということがわかった.これは従来の結果を修正するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1つの定数遅れかつスカラーの線型微分方程式の超越方程式でありながら,その根全体の集合が複素平面に含まれるための必要十分条件を求めることができたので,順調に進展していると言える.この結果は,2つの国際研究集会(1つは口頭,もう1つはポスター)にて発表した.また,遅れをもって結合した同一の位相振動子の同期状態に適用できることにより,得られた結果の一般性は高いと言える. ただし,Lambert の W 関数の作用素への拡張という当初の目的は想定していたより困難であるように思われる.この点を考量しても,研究計画には述べなかった無限遅れの関数微分方程式の大域アトラクタなどの研究が進展しており,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
無限遅れの関数微分方程式の理論の構築や,その大域アトラクタが存在するための十分条件の研究が進展しており,これを引き続き進める.無限遅れの場合は有限遅れの場合を含んでいるので,これらの関係を調べることで,有限遅れの関数微分方程式のダイナミクスの理解を目指す.特に,遅れパラメータが無限大に発散する極限をどう捉えるかは,無限遅れの場合と関係すると思われる. また,Mackey-Glass 方程式の遅れ項を定数遅れから分布遅れにしたときにダイナミクスがどのように変わるかということも興味深いと考えられる.これも,履歴の情報をどこまで使うかという意味で無限遅れの場合と関係すると思われる. 無限遅れの関数微分方程式のダイナミクスの相空間は Banach 空間ではなく Frechet 空間となり,大域アトラクタを調べる際には既存の力学系理論を適用することはできない.この意味で,Frechet 空間上の力学系理論を構築することは興味深いと考えらえ,これを推進する.
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