研究課題/領域番号 |
15J02624
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
今井 彬暁 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | モン族 / つながり / ベトナム / 親族研究 |
研究実績の概要 |
当該年度は、フィールド調査に基づくデータ収集を主要な研究活動として実施し、調査の合間に研究成果を論文としてまとめた。 フィールド調査では、3度にわたる延べ約6カ月半の滞在型調査を実施した。村落部における儀礼や農作業の参与観察、および村の社会関係に関する聞き取り調査を実施することで、モン族社会の基盤をなす親族関係についての理解を深めた。また、モン族女性が携わる町での観光客への土産物販売について参与観察を行い、急速に変化する社会環境下の彼女らの適応のあり方を記述した。 平成27年度後期には当該年度に得られた調査結果をまとめ、日本文化人類学会が主催する2015年度「次世代育成セミナー」へ20,000字程度の論文草稿を提出し、11月22日に国立民族学博物館にて研究内容を発表する機会を得た。当該セミナーにおける論文草稿および発表では、儀礼実践への照射により村落社会におけるモン族の親族集団の範囲の究明が可能となり、またその組織原理を体系的に理解し得ることを示す研究成果を提示した。結論部では、先行研究においてしばしばサブクラン、リニージ、そして家族と呼ばれてきたモン族社会における主要な社会集団のカテゴリーが儀礼集団としての性質を帯びていることを述べた上で、そうした社会集団が死者と生者のあいだの互酬的関係に立脚して形成および維持されており、この原理がモン族の社会集団の世代を超えた再生産における根幹をなしていることを報告した。この研究発表では、複雑なモン族の社会集団の究明に際して、社会集団の構造および機能からの説明を出発点とする代わりに、モン族が社会生活の中で行う実践に着目し、その実践がいかなる社会集団の形成に帰結しているのかを村落部における調査をもとに分析することで、これまで主流であった血縁関係を基準とした視座とは異なる観点からモン族の親族集団の組成について解釈を加えることを企図した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、平成27年5月28日から8月21日にかけての約90日間、同年9月23日から11月12日にかけての約50日間、そして平成28年2月1日から年度をまたぎ4月27日にかけて、現地調査を実施した。平成27年度の延べ調査期間は約6カ月半であった。第1回目の調査では、村落部における滞在調査を実施し、出自集団や親族関係を含むモン族の伝統的な社会関係がいかなる義務や権利に基づいて成立しているのかを調べた。その中で、モン族の出自集団の成員権が、祖先祭祀や葬送儀礼などの宗教実践に基づいて規定されていることが明らかになった。そこで第2回目および第3回目の調査では、儀礼等の宗教活動に関して積極的に参与観察を行うことで、出自集団および親族関係に関する理解の深化を目指した。また、稲の収穫やトウモロコシの種まきを含む農作業や、観光客に対する土産物販売の参与観察を行い、それらの活動を詳細に記録した。以上の調査を通して、モン族の村落部におけるつながりの規定原理や形成過程を究明するための詳細なデータや、多様化する生計維持活動についてのデータを得た。また、調査を通して現地住民とのあいだにより深い信頼関係を構築し、次年度からの調査をより円滑に実施するための礎を築いた。現地の行政機関やベトナム人研究者との関係も良好であり、次年度からも引き続き調査許可を得た上で調査を継続する予定である。 現地調査の節目の帰国時には、データ整理や先行研究の渉猟を行った。また、指導教員との面談を頻繁に行う中で、調査の内容や研究の方向性について議論し、指導助言を得た。さらに、本学教員を招いて行う論文ゼミナールにて2度の発表を行うことで、研究成果を公表する準備に努めた。そして、日本文化人類学会「次世代育成セミナー」において成果を発表した。当初の研究実施計画はおおむね達成されており、研究は問題なく順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、これまでの調査結果を踏まえたフィールド調査を継続し、調査結果を投稿論文および研究発表のかたちで随時公表する中で、博士論文の完成につなげていく。 これまでの現地調査において、親族関係や儀礼に関する調査および農作業や観光客に対する土産物販売の参与観察を長期にわたり繰り返す中で、モン族のあいだにしばしば現れる傾向として、他者の怠惰への批判的姿勢、行商で多くを売り上げた者への嫉妬の感情、持つ者が持たない者に分け与える義務、といった要素が浮かび上がってきた。こうした調査結果をもとに、今後のフィールド調査では、研究者のあいだで平等主義的と評されるモン族社会の解明に当たり、他者との関係の中で人々が表出させる態度や感情の機微を汲み取りながら、生計維持の手段や社会関係の種類が多様化する現代の社会変化の中のモン族の適応のあり方を調査し、それによりモン族の中に根付いた他者とのつながりの原理を描出することを目指す。なお現地調査体制については、これまでと同様、現地の省庁や村役場を含む関連行政機関と連携を密にしながら、調査許可を得た上で実施する。 研究成果の公表に関しては、昨年度に執筆したベトナム語での論文草稿について引き続き現地のベトナム人研究者と議論を交わす中で推敲を重ね、平成28年度中にベトナム現地の研究雑誌へ投稿することでベトナム社会への研究成果の還元を目指す。また、指導教員との面談や本学の授業への参加を引き続き行うことで自身の研究内容について考察を深め、また理論についても学習を重ねた上で、日本の学術雑誌へ論文を投稿し、モン族およびベトナム少数民族に関する研究蓄積への貢献に努める。また、最終的に、それらの成果全体を博士論文として一つのかたちにまとめ、広く人類学的研究の蓄積および発展に寄与し得る研究の公表を目指す。
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