研究実績の概要 |
本課題は, 核多角体病ウイルス (NPV) 感染に対して昆虫細胞が誘導するRNA分解の機構を分子レベルで明らかにすることを目的としている. 本年度は, 以下の2つを中心に研究を行った. ① RNA分解誘導に関与するNPV因子 (P143) のRNA分解誘導に関わるアミノ酸残基の決定ならびにRNA分解誘導とNPV増殖制限の関係に関する解析 AcMNPVのP143 (Ac-P143) の一部の領域 (ScH領域) をBm-P143のものと組換えたAcMNPVはカイコ細胞で増殖感染することから、Ac-P143は、AcMNPVのカイコ細胞におけるNPV増殖の可否に関与することが示唆されている。そこで、rRNA分解誘導とNPV増殖の可否の関係を明らかにするために、rRNA分解誘導に関わるAc-P143のアミノ酸残基の決定を行った。その結果、ScH領域の6から8アミノ酸残基がrRNA分解誘導に関与することが明らかとなった。また、rRNA分解誘導に関わるアミノ酸残基がNPV増殖の制限にも関わることが示された。以上の結果から、rRNA分解誘導は、カイコ細胞におけるNPV増殖制限の要因であり、宿主特異性決定に関わる抗ウイルス応答であることが示唆された。 ② RNA-seq法を用いたNPV感染カイコ細胞におけるトランスクリプトーム解析 これまでの研究から、rRNA分解の誘導は、カイコ細胞が特異的に保持する抗ウイルス応答であることが示唆された。そこで、rRNA分解誘導のシグナル伝達機構の解明を目的として、NPV感染カイコ細胞のRNA-seq法によるトランスクリプトーム解析を行った。NPV感染に伴う細胞遺伝子の発現レベルの変動を調査した結果、感染後8時間のAcMNPV感染細胞において、730遺伝子の発現レベルが減少していることが明らかとなった。この遺伝子群には、リボソームに関連する39遺伝子、アポトーシス阻害遺伝子であるcBm-iap1が含まれていた。以上の結果から、特定の遺伝子の発現レベルの減少が、NPV感染カイコ細胞におけるrRNA分解やアポトーシスの誘導の要因の一つである可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は, 核多角体病ウイルス (NPV) 感染に対して昆虫細胞が誘導するRNA分解の分子機構を明らかにすることを目的としているものである. 今年度は, RNA分解誘導に関与するNPV因子 (P143) のRNA分解誘導に関わるアミノ酸残基の決定を行い, 細胞のRNA分解による防御応答とNPV増殖の可否の関係を示した. この成果は, 国際誌と国内学会, 国際学会において報告された. また, RNA-seq法を用いたNPV感染カイコ細胞におけるトランスクリプトーム解析を進め, カイコ細胞において不全感染となるAcMNPVが感染した場合に, 多くの細胞遺伝子の発現量が減少することを明らかにした. この成果は, 国内学会において報告された. このように, 当初の計画から若干の変更はあったものの, 概ね期待通りに研究が進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していたP143と相互作用する細胞因子の探索が困難であり, シグナル伝達機構の上流因子の同定が難航しているため, 来年度はRNA分解を実行するエフェクター分子の探索を行う. 探索は, RNAi法と各種シグナル伝達機構の阻害剤を用いた網羅的解析により行う予定である. また, 本年度明らかにしたウイルス感染に伴う特定の遺伝子の発現量の減少とRNA分解が関連しているかどうかを詳細に調査することで, RNA分解の分子機構の解明を目指す.
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