研究課題/領域番号 |
15J02650
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中田 芳史 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 量子疑似ランダムネス / 対角量子回路 / 量子カオス / 量子マルコフ鎖状態 / ホログラフィック原理 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、「quantum pseudo-randomness(ユニタリ・デザイン)」と呼ばれる量子多体系におけるランダムな時間発展をいかに効率よく生成するか、という課題に主に取り組んだ。また、その応用に関する研究も行った。本研究成果は、平成28年度研究計画の「1.対角量子回路を用いたユニタリ・デザインの実装、およびユニタリ・デザインの精密化」に対応する。 今年度はまず、研究実施計画通り、「二体相互作用のみで構成された量子回路を用いてquantum pseudo-randomnessを効率的に生成する方法」を得ることに成功した。この結果は、量子多体系において「ある種の量子カオス的な多体系においてはquantum pseudo-randomnessが極めて短時間で自発的に実現する」ことを意味している。Quantum pseudo-randomnessは多くの量子情報処理プロトコルで有意義なだけでなく、複雑な量子多体系での基礎物理においても重要な役割を果たすことが近年分かってきたため、本研究成果は量子情報及び基礎物理の双方に貢献するものである。 さらに、quantum pseudo-randomnessの応用として、quantum pseudo-randomnessと、ある特殊な性質を持つ量子状態の関連を詳細に解析した。その特殊な性質は、ある数理物理的な予想に関連していると考えられるが、特定の状況下でのquantum pseudo-randomnessを仮定することで、その予想をミクロスコピックな描像から導出できる可能性を示唆する結果を得た。この結果は、特に基礎物理において大きな意義を持つ。 これらの研究成果に並行し、平成27年度に得られた結果をさらに向上する結果や、共同研究として量子測定に必要なエネルギーコストに関する研究成果を挙げることにも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画では、「対角量子回路を用いたユニタリ・デザインの実装および、ユニタリ・デザインの精密化」および「有限温度多体系における相図の計算量的特徴づけ」を年度目標として定めた。前者の目標に関しては研究が著しく発展し、大きな成果を挙げることに成功した。一方で、その研究に時間を割いたため、後者の目標達成に関しては進捗が遅れている。その他、研究実施計画以外にも、「量子測定のエネルギーコスト」に関する共同研究で成果を得ることに成功した。 より具体的な進捗状況としては、前者に関しては、異なる研究成果を三つの国際会議で発表し、それぞれの会議で多くの質問を受けて高評価を得た。得られた成果は三つの学術雑誌に投稿済みで、そのうちの一部は既にPhysical Review Xから出版された。さらに、得られた研究成果をさらに発展することにも成功しており、成果および発表の双方で非常に順調に推移している。一方で、予想以上の成果に繋がった前者の研究課題に多くの時間を割いたため、後者の研究課題の進捗状況が少し遅れが出た。この研究計画の遅延に関しては、前者の課題に関連する研究が世界的に盛り上がりを見せているため、そちらに研究リソースを割くべき状況であったこと、また、当初の計画外であった共同研究が進展したことも強く影響している。 このように、平成28年度は当初の計画では予期していなかったいくつもの要因が絡み合ったことで、研究計画のバランスを多少変更せざるを得なかったものの、総合的には研究課題はおおむね順調に推移していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に「quantum pseudo-randomness」 に関する研究が予想以上に進展し、また、世界的にその分野の研究が盛り上がりを見せている現状を踏まえ、今後は関連する研究の割合をさらに増やす方向で研究を進める。特に、平成28年度にquantum pseudo-randomnessの効率的な実装方法の研究で世界をリードする結果を得た経験をもとに、その効率的実装方法を積極的に発展・活用した研究を行っていく。より具体的には「1、これまでの方法を発展させ、最小限の時間依存性でquantum pseudo-randomnessを実装する方法を模索する」、「2、Quantum pseudo-randomnessと特殊な量子状態である量子マルコフ鎖状態の関連を明らかにし、強相関系の物理および高エネルギー物理へと応用する」、「3、Quantum pseudo-randomnessの計算量的量子性を解析することで、quantum pseudo-randomnessを計算量的複雑性の観点から特徴づける」の三課題に注力する。Quantum pseudo-randomnessにおける基礎固めである研究課題1、複雑な量子多体系への応用を考える課題2、そして、計算量的複雑性を考察することで新しい観点からの融合的理解を求める課題3を通じて、最終的な到達目標である「複雑性という視点からの量子多体系の理解」へとつなげていく。 本年度は、上記のようにquantum pseudo-randomnessの「基礎固め」「応用」「発展」を一義的目標として研究を強力に推進させていくが、それらの研究状況次第では、平成28年度にやや遅れがみられた研究課題である「相転移現象の計算量的理解」に関する研究も随時行っていく。
|