昨年度から発展的なテーマに着手している。具体的にはゲノムワイド関連解析によりMAN2A1遺伝子が炎症性腸疾患(IBD)の新規感受性遺伝子候補となったため、その遺伝子産物であるα-マンノシダーゼII(α-MII)のIBDにおける役割を解析した。 昨年度、私は腸管上皮細胞(IEC)だけでα-MIIを欠損するα-MIIΔIECマウスが実験的大腸炎モデルの一つであるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎に耐性を示すことを明らかにした。今年度はそのメカニズムの解明に取り組んだ。 最初に腸内細菌を解析したが、α-MIIΔIECマウスと対照マウスで腸内細菌に違いは認められなかった。従って、腸内細菌が関与する可能性は低いと考えられる。 DSS誘導性大腸炎に伴い大腸へと浸潤してくる免疫細胞を解析したところ、α-MIIΔIECマウスでは炎症性細胞の一種である好中球の浸潤が抑制されていたことから、次にその詳細なメカニズムを調べた。好中球はケモカインを感知することで炎症部位へと遊走することから、大腸における好中球走化ケモカインの発現を調べた。その結果、α-MIIΔIECマウスでは大腸に存在する細胞のうち、非上皮系の細胞におけるケモカイン産生が低下していることが分かった。 以上をまとめると、IEC由来のケモカイン誘導因子が、大腸に存在する他の細胞(免疫系細胞、ストローマ細胞)に作用し、その細胞における好中球走化ケモカインの産生を促進すると考えられる。これらのケモカインは好中球の大腸への浸潤を促進する。大腸に過剰に集積した好中球が組織傷害を引き起こし、その結果としてDSS誘導性大腸炎が増悪すると考えられる。α-MIIΔIECマウスではIEC由来ケモカイン誘導因子の発現や機能が低下することで、ケモカインの産生、好中球の浸潤が抑制され、DSS誘導性大腸炎が軽減された可能性がある。
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