研究課題/領域番号 |
15J02670
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
前田 亮 千葉大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | p53 / TLP / MDM2 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、以下の研究を実施した。 1. TLPによるp53安定化機構の解析 基本転写因子TBPの類似因子であるTLPは、過剰発現すると細胞増殖を負に制御することが知られている。また、もっとも代表的ながん抑制遺伝子であるp53と結合することから、まず初めにTLPを過剰発現することによるp53への影響を調べたところ、TLPのタンパク量が増加するにしたがいp53のタンパク量が増加することが明らかになった。次に、その詳細な機構を解析したところ、TLPはp53のユビキチン化を抑制していることが分かった。TLPはp53の転写活性化ドメインに結合することが明らかになっており、同じドメインに結合するp53の抑制因子であるMDM2との関係に焦点を絞って、TLPとMDM2によるp53に対する結合競合実験を行ったところ、TLPはMDM2がp53へ結合するのを阻害し、その結果としてp53のユビキチン化を抑制、p53を安定化させていることが明らかになった。 2. ストレス応答下でのTLPの機能解析 p53は細胞傷害を受けることで活性化し、その強力な細胞増殖抑制機能を発揮する。そのため、UV傷害時におけるTLPによるp53への影響を調べた。UV傷害時、p53は徐々にタンパク量が増加していき、12-16時間あたりで極大を迎えた後、次第に減衰していく。TLPが抑制されている細胞においては、通常のものと同様にp53の極大値は変わらなかった一方で、その後のp53の減衰速度が速いという結果が得られた。このp53の減衰はMDM2が主に担っており、TLPが少ないことでMDM2がp53をより速く分解することができることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画に報告した内容のうち、平成27年度のものはほぼ完全にこなすこができたことに加え、28年度の計画である単一細胞でのTLPによるp53の分子動態の変化を明らかにすることができた。また、TLPをノックダウンした細胞をヌードマウスへ移植して、がんの進行具合を解析する計画においても、現在実験の準備が整い28年の4月には行うことができる予定である。現在までで、TLPがp53を介したがん化の抑制に作用していること、また、子宮頸がんの患者でみられたTLPの変異体ではp53の結合能の欠如に伴う細胞増殖抑制機能の欠落がみられることがわかり、TLPががんにおいてその進行を抑制する働きを持っていることが示唆できる結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度、29年度は、がんにおけるTLPの機能解析と、次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析を行っていく予定である。これまでの研究から、TLPががんの進行に負に働くことを示唆する結果が得られたことから、実際にがんにおいてそのような機能がみられるかどうか検討する。TLPをノックダウンした細胞を免疫不全マウスへと移植し、そのがんの形成および進行度合いを解析する。また、がんが悪性化したときの指標である転移や浸潤能を調べることで、TLPの発現量とがんの悪性化能の相関を調べる。これらの解析を行うことで、TLPががんに対してどのような作用を及ぼしているかの具体的な機構を明らかにする。 また、近年普及している次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析を平行して行う。TLPは遺伝子の発現を調節する転写因子であり、TLPを抑制することで様々な種類の遺伝子に変動がみられることが考えられる。実際に、GAPDHなどのハウスキーピング遺伝子とよばれる普遍的な遺伝子群にも影響を及ぼしていることがわかっている。代謝などの遺伝子が変動すれば、がんにとって大きな影響を及ぼすことが考えられ、TLPによって変動する遺伝子とp53によって調節される機構を総じて考えることで、p53によるがん抑制機構をより鮮明にすることができる。したがってTLPによる変動遺伝子を網羅的に解析することで、TLPの詳細な機能および、p53への影響の詳細な機構を解析する。
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