ストレス傷害後のアポトーシスや細胞老化といった細胞運命は、主にp53が標的遺伝子を活性化することによって制御されている。このp53による細胞運命制御経路はほぼ全てのヒトのがんにおいて異常がみられていることから、極めて重要ながん抑制経路であると考えられている。これまでにp53による細胞運命決定機構を説明するモデルとして、傷害後の細胞運命はp53の活性化量および活性化時間により決定されるといった説が挙げられていたが(Kracikovaら Cell Death Differ 2013)、その詳細なメカニズムは充分に解明できていなかった。私は特別研究員採択期間中に、このp53制御機構の解明に挑み、p53の活性化維持に重要なメカニズムを発見した。 平成27-28年度は、TLPによるp53の機能促進機構を明らかにした。それに引き続き平成29年度は、がんにおけるTLPの寄与を明らかにした。TLP発現抑制細胞をマウスに移植したところ、腫瘍形成が著しく上昇する結果となった。また、がん細胞株における遺伝子発現および抗がん剤感受性の網羅的解析データ(Garnettら Nature 2012)の再解析から、TLPの発現が高いほどp53依存的に化学療法薬剤の効果を得やすいことが示された(投稿準備中)。 加えて、がんの原因の一つであるゲノムの不安定化の観点から、ゲノム構造を変化させうる要素であるトランスポゾンに着目した。バイオインフォマティクス技術を用いてトランスポゾンとそれを抑制するヒストン修飾であるH3K9メチル化の関係を調べた。その結果、トランスポゾン抑制におけるH3K9メチル化を触媒する酵素の役割の一端を明らかにすることができた。
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