研究課題/領域番号 |
15J02695
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
白田 理人 琉球大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 危機言語・方言 / 文法記述 / 自然談話 / 言語ドキュメンテーション / 琉球諸語 |
研究実績の概要 |
本研究は、北琉球諸語に属する地域変種を対象に、1文法の体系的記述・2言語一次資料の収集とアーカイビング・3比較言語学的手法に基づく系統的位置づけの3点を目的としている。当該年度は、主に1と2の目的のため、喜界島(上嘉鉄集落/小野津集落/志戸桶集落)、奄美大島龍郷町(浦集落)、瀬戸内町請島(請阿室集落/池地集落)・与路島(与路集落)に断続的に約2ヶ月滞在してデータを収集し、分析結果の一部を論文・学会等で発表した。 1の文法記述について、喜界島上嘉鉄方言の形容詞の語形変化・形態統語的・意味的特徴、テンス・アスペクト・エビデンシャリティについて発表した。喜界島小野津方言・志戸桶方言について、格助詞・取り立て助詞の形式と機能を調査し、小野津方言について報告書にまとめた。Lukas Rieser氏(京都大学大学院博士後期課程)との共同研究として、上嘉鉄方言の文末辞-sooの形態統語的特徴と文法化経路について分析、発表した。重野裕美氏(広島経済大学准教授)との共同研究として、奄美大島龍郷町浦方言、喜界島上嘉鉄方言・小野津方言を対象に、名詞句の有標性階層に関わる現象(主格標識・複数標識・名詞修飾標示・短母音化交替)についてまとめて報告した。重野氏との共同研究として、請島請阿室方言・池地方言・与路島与路方言の基礎語彙調査、動詞・形容詞の語形変化の調査、名詞と助詞の境界で起こる子音交替の調査を行い、その結果をもとに請阿室方言の分節音の分布の制限と交替について発表した。 2の資料収集について、小野津方言・志戸桶方言について、自然談話の収録(録音・録画)と童謡の方言訳の作成及び録音を行った。重野裕美氏との共同研究として奄美大島龍郷町浦方言の自然談話を収録(録音・録画)し、書き起こし(形式と意味の確認)を行い、言語学的研究に資する資料とするための語釈づけを行い、自然談話資料を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、喜界島上嘉鉄方言・小野津方言・志戸桶方言について、形態面・音韻面・統語面の種々の分析に資するデータを収集・分析し、一部を成果として報告した。このうち、特筆すべき点として、小野津方言の短母音化交替がある。小野津方言では、名詞の語幹末長母音が一定の条件で短母音と交替する。その条件として、有生性階層における位置、名詞語幹の長さ、後続要素(接辞及び助詞)の長さが関与的であることを報告した。また、研究蓄積の少ない瀬戸内町請島(請阿室集落/池地集落)・与路島(与路集落)の方言を対象に、現地調査に着手し、音韻面及び形態面の記述のためのデータを収集した。請島・与路島を含む瀬戸内町の諸方言では、他の北琉球諸語及び日本語に比べて音節末に現れる子音の制限が緩く、語末に(調音点の対立する)閉鎖音・摩擦音・鼻音が現れうる点、調音点の異なる子音連続が許される点が特徴的であり、音韻論的/形態音韻論的分析上大きな分析課題となる。当該年度は語末子音及び子音連続の分析に資するデータを収集し、有声性及び口蓋化における音節末子音の分布制限と子音交替について、分析・発表し、フィードバックを得た。 以上は、本研究の目的1の音韻面/形態面/統語面に渡る体系的文法記述に相当する成果であり、最終的に報告書として提出する文法概説の一部となるものである。 また、当該年度は喜界島小野津方言・志戸桶方言・浦方言について、自然談話の収録(録音・録画)・書き起こし(形式と意味の確認)と童謡の方言訳の作成及び録音を行った。これは、本研究の目的2の言語資料のアーカイビングに相当する成果であり、得られた資料は長期的に管理し、承諾を得られた部分について研究者・地域コミュニティが学術研究及び方言教育、言語維持・再活性化のための活動など多目的に利用可能なかたちで公開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記1・2・3の目的のため、喜界島(上嘉鉄集落/小野津集落/志戸桶集落)、奄美大島龍郷町(浦集落)、瀬戸内町請島(請阿室集落/池地集落)・与路島(与路集落)での調査(聞き取り調査及び自然談話)を継続する。また、奄美大島笠利町及び沖縄本島北部でも調査を開始する。 1の文法記述について、請島請阿室方言、喜界島小野津方言(及び志戸桶方言)を対象に文法概説を執筆する。当初は文法概説作成対象として、奄美大島(及び島嶼部)、沖縄本島(及び島嶼部)を予定していたが、喜界島小野津方言(及び志戸桶方言)も調査の結果これまでに報告されていない現象が多く見られたため、対象に加える。笠利町及び沖縄北部についても、調査地点を絞り、文法概説執筆に向けて、まずは語彙と名詞/形容詞/動詞の語形変化のデータを収集し、これをもとに音韻面/形態面の分析を行う。 2の言語資料収集とアーカイビングについて、上述のすべての地域で、自然談話・歌等を記録(録音・録画)し、話者とともに書き起こし作業を行う。データのアーカイビングのため、ロンドン大学SOASのアーカイブセンターHRELPと一次資料の預託に向けて話し合う。また、電子博物館へのデータの格納・公開の作業を進める。 3の系統的位置付けについて、上述の地域の語彙及び文法の調査結果に基づき、不規則な語形の対応を中心に比較検討を行いつつ、補足すべきデータの洗い出しを行う。
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