鳥類の動的環境知覚に関連して、運動視差と視覚運動に関する研究を行った。 ヒトは眼球の回転により視線移動を行うが、鳥類は頭部運動によって視線移動を行う。3次元的な視線移動により、視覚的奥行き手がかりの1つである運動視差が生じると想定される。鳥類が頭部運動による運動視差を利用するか調べるため、ハトの頭部運動に同調し運動するヴァーチャル刺激をモニタに提示し、それに関する弁別実験を2件行った。1件目では運動視差によって、物体の主観的な大きさが変化するかどうか調べた。結果、ハトの大きさ判断に運動視差の影響はみられず、大きさの恒常性は確認されなかった。一方、弁別対象の刺激に対するつつき運動には運動視差の効果がみられ、運動視差が遠い条件の刺激に対してモニタからの視距離が近くなった。2件目では、ハトが運動視差を意識的に知覚するか調べるため、運動視差の弁別を訓練した。結果、3cm程度の奥行き差があればハトは運動視差を弁別できた。これらの研究から、ハトは頭部運動によって生じる運動視差を、運動制御や奥行き知覚など幅広い用途に利用することが確認された。 ヒトの視覚運動処理は、輝度依存のシステムからより複雑な特徴に基づく運動検出まで、階層構造を持つことが知られているが、これが視覚依存の種に共通する処理構造かは明らかでない。鳥類の視運動処理の階層性を調べるため、ヒトの知覚研究に用いられるBarber-pole錯視とPlaid刺激を用い、ハトに対して運動方向弁別課題を訓練した。結果、ハトは両刺激に対しヒトとは異なる方向に運動を知覚することが示唆された。ヒトの知覚が2次元的な特徴に基づいた運動方向に従うのに対し、ハトはより単純な1次運動に基づく方向に反応した。これらの結果は、ヒトの運動処理が環境中の運動を検出するための唯一の方式ではなく、運動視の方式には脊椎動物間で多様性があることを示している。
|