研究課題
脳は回路特性や生理学的特性の異なる多数の神経細胞によって構成されており、並列分散的で高度な情報処理を行っている。近年我々は発生期のエピジェネティック修飾が神経細胞の個性化や回路形成に関与することを世界に先駆けて明らかにしたが(Toyoda et al., 2014, Neuron)、細胞系譜や誕生日との関連性や高次の脳機能への関与についてはあまり理解が進んでいない。そこで本研究では細胞系譜と局所回路、投射先との関連性について理解することを目的とした。まず、小脳の微帯構造と細胞系譜の両方を可視化するために、すでに樹立済みであるAldolase C-tdTomatoノックイン胚性幹細胞(ES細胞)にECFP遺伝子を導入し、Aldolase C-tdTomatoのヘテロマウスの胚盤胞に注入することでキメラマウスの作製を行った。その後、生後マウスの脳に対して、アデノ随伴ウィルスベクターによるCa2+指示タンパク質の導入を行い、2光子顕微鏡を用いた細胞系譜の同定と神経活動の計測を試みた。また、大脳皮質の局所回路形成における細胞系譜の関与を明らかにすることを目的として、発生期におけるエピジェネティック制御因子や多様化細胞接着分子プロトカドヘリンを欠損したiPS細胞株の樹立とキメラマウスの作製を行うことで、細胞系譜依存的な双方向性シナプス結合に関わる分子機構の発見に貢献した(Tarusawa et al., 2016, BMC Biol)。さらに、ヒト脳機能の個性における細胞系譜や遺伝要因について明らかにすることを目的に、双子を対象とした脳機能イメージング研究を大阪大学及び情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センターとの共同研究として実施した。
2: おおむね順調に進展している
大脳皮質の神経回路形成における細胞系譜の役割については論文発表を行った (Tarusawa et al. 2016)。小脳については、得られたマウスの生体脳に対してウイルスの注入を行い、同一系譜の細胞の活動および微帯構造との関連性について2光子顕微鏡を用いた解析を試みた。現在までに10匹以上の生後マウスを得られているが、ECFP陽性のES細胞由来の神経細胞を確認することができず、また、得られる産仔数もあまり多くはならなかったため、胚操作過程もしくは遺伝子導入したES細胞の状態があまり良くないことが原因である可能性が示唆された。ヒトの脳機能イメージングについては、一卵性双生児14組、二卵性双生児7組に対して自然動画視聴中の脳活動をfMRI計測し、遺伝的寄与の高い領域を示唆させる予備的な結果を得た。
マウス大脳皮質・小脳に関しては、子宮内エレクトロポレーション法やウイルスを用いた遺伝子導入による細胞標識を行う等の代替策について検討を行う。ヒトについては被験者数を増やしてより定量的な解析を行う。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 備考 (2件)
BMC Biology
巻: 14 ページ: 103
10.1186/s12915-016-0326-6
http://researchmap.jp/toyoda02/
http://www.med.yamanashi.ac.jp/basic/physio02/Kitamura_Lab_j/Top_j.html